耕作放棄地対策をわかりやすく解説

耕作放棄地と遊休農地の基本

耕作放棄地とは、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する意志のない土地」と、農林水産省が定義しています。5年に1度行われる「農林業センサス」(農林業施策の企画、立案、推進のための調査)で、農家の主観的な意思(耕作する意思があるか、ないか)によって、耕作放棄地か、そうでないかが決められます。一般的な概念であるため、法的な規制はとくに存在しません。

遊休農地は、農地法によって定義され、法的な規制や制度が存在します。1号遊休農地2号遊休農地」に分けられています。

1号遊休農地は「耕作の目的として使われておらず、かつ、引き続き耕作の目的に使われないと見込まれる農地」」のことです。現在も、将来も、農業に利用される予定がない土地を指します。

2号遊休農地は「農業としての利用の程度が、その周辺地域における農地の利用の程度に比べて、著しく劣っている農地」」のことです。つまり、農業利用が低い土地を指します。家族が食べる分だけの野菜を作っているような農地も2号遊休農地になります。

1号にしろ、2号にしろ、遊休農地は農地の再利用や他の用途への転用など、法的な手続きを経て、さまざまな方法で活用されることがあります。たとえば、体験農園やキャンプ場、バーベキュー施設、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電所)、イベントスペース、農産物の加工施設などに有効活用することができます。適切に管理し、有効活用することは、地域経済の発展や農業の振興にも役立つ重要な要素となっています。

荒廃農地とは、市町村および農業委員会が毎年1回、調査を行い、判定する荒廃農地調査において、「耕作に使われておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている」」と判定された農地のこと。長期間にわたって耕作や管理が行われず、土壌が劣化してしまっている農地を指します。耕作放棄地が農家の主観的な意思によって判断されるのに対し、荒廃農地は調査員が状態を見て、客観的に判断します。なお、荒廃農地調査は2021年度に廃止され、遊休農地の調査と統合されています。

全国と千葉県の耕作放棄地の現状

全国の耕作放棄地は、1985年まではおよそ13万ヘクタールで横ばいで推移していましたが、1990年以降は増加に転じ、2010年にはほぼ埼玉県の面積に相当する39.6万ヘクタールにまで増加しました。2015年にはさらに増え、42.3万ヘクタールとなり、1985年と比べると耕作放棄地率「耕作放棄地面積÷(経営耕地面積+耕作放棄地面積)×100」は、3.9倍に増加しています。

とくに近年は、農地を持っているけれども耕作をやめた「土地持ち非農家」と、生業としての耕作をやめ、自給のためだけに作物を育てる「自給的農家」の割合が多くなり、両者を合わせて6割強を占めるようになっています。

一方、「チバニアン兼業農学校」がある千葉県の耕作放棄地も増加傾向にあります。1985年には3178ヘクタールしかなかったけれども、30年後の2015年には1万9062ヘクタールと約6倍に増えています。耕作放棄地率も7.6倍と急激に増加していて、大きな課題となっています。

耕作放棄地は、再び利用される予定も意思もないわけですから、その間に農地としての土壌の管理も行われず、放置期間が長引けば長引くほど、農作物を育てるのに必要な栄養素も失われ、最終的には雑草や害虫だらけになり、農地としての再利用が不可能になります。そんな耕作放棄地が全国に増え、広がっていった結果、日本の食料自給率は40パーセント程度まで下がり、食料を輸入に頼ることによる食料安全保障が課題となっています。

耕作放棄地が増加する背景と原因

耕作放棄地が増加した背景と原因は多岐にわたります。主な背景と原因として4つ、挙げます。

農家の高齢化

日本の農業者の高齢化が進んでおり、2021年の農家の平均年齢は67.9歳となっています。単純に考えると、10年後には平均年齢は78歳になる計算です。まだまだ元気な方もおられますが、体力的にも厳しくなる年齢でしょう。後継者がいない農家も多く、また、新規就農者の中でも49歳以下の人の割合が減っているので、高齢化に歯止めをかけ、地域の農業をどうやって存続させていくかは喫緊の課題となっています。

高齢農家は、農地の管理や農作業に必要な体力に衰えを感じたり、新しい機械の購入が必要となっても費用の捻出が難しくなったりして、リタイアを決意します。手放した農地は、数少ない若手農家が借り受けて耕作したり、法人をつくって耕作を請け負ったりしていますが、カバーしきれないのが現状です。そのため、耕作しきれない農地、つまり耕作放棄地が増加するという状況に陥っているのです。

若者の農業離れ

若い世代の就農人口が減っています。仕事としての農業に魅力を感じない若者が増えることで、農地の適切な管理や農業活動が継続しづらくなります。なぜ、若者は農業に魅力を感じないのでしょう?

1つは、経済的な不安定さ。農業は収益性が低い場合があり、会社員に比べて収入が不安定な職業と言えます。農業経営、とくに稲作には多くの投資が必要であり、天候や市場価格の変動にも左右されやすいため、経済的に不安定になりがちです。それが、若者の農業離れの理由の一つです。

2つ目は、労働の厳しさ。農業は季節や作物に応じて労働時間が不規則で、肉体的にも精神的にも厳しい面があります。それも、農業離れの一因です。

3つ目は、技術とイノベーションの不足。農業は新しい技術やイノベーションの導入が遅れていて、効率的な農業経営が難しくなっています。テクノロジにーに親しんで育ってきた若者にとって、魅力ある仕事とは思えないのかもしれません。ただ、最近はコンピュータやAI(人工知能)を活用した作物の栽培や、ドローンを使った農薬散布など、農業の分野にも技術革新が取り入れられるようになってきています。今後の動きに期待したいところです。

また、若者は都市部での刺激の多い暮らしや、多様なキャリア機会、エンターテイメント、文化活動などを好みます。田舎の集落で農業をやりたいと望む若者は珍しい存在と言っても過言ではありません。「農業はカッコ悪い」というイメージから就農をためらう若者も多そうです。

農業の持続可能性、技術革新、若者への支援プログラム、農業と都市生活の調和など、農業分野の改善策を行うことが若者の農業離れを防ぎ、引いては耕作放棄地の減少にもつながるはずです。

経済的な課題

農業は収益性が低い産業だと言われます。その主な要因として、国内外での競争が激しくなり、農産物の市場価格が低下していることが挙げられます。農業に必要な資材や設備費用が高額になっていることによって、収益を確保することが困難になる農家も少なくありません。農林水産省の「令和3年農業総産出額及び生産農業所得」によると、2015年以降の生産農業所得は3兆円台で推移しているものの、1990年代が約5兆円規模だったのに比べて減少していることは否めません。農産物の価格が下がり、利益を上げられる作物がつくれないと、農業を続けていくこと自体が難しくなってしまいます。経済的な課題から農業を継続することが難しくなると、農業をリタイア。結果、農地を手放し、耕作放棄地が生まれていますのです。

経済的な課題の一つに、経営の非効率性も挙げられます。農業プロセスや経営の非効率性が、農業の持続可能性に影響を与えているのです。高コストや低収益の経営モデルが、農業者を耕作放棄に追い込むこともあります。また、農地が相続などにより分割され、小さな農地が増えることで経営効率が低下し、一部の土地が耕作放棄されるということもあります。

野生動物による獣害

イノシシやシカ、サル、ウサギなど、さまざまな野生動物による農作物被害が深刻になっています。農作物を食べ、農地を荒らしたりすることで、肥料や水分が農作物に行き渡らなくなってしまい、生育が悪くなり、収穫量が減少してしまうのです。 獣害対策には、電気柵や防護柵などの設置が行われますが、人手が必要であり、コストもかかります。害獣によっては繁殖力が高く、駆除してもすぐにまた増えてしまう動物もいます。一部の農家は、獣害によって耕作を断念し、農地が耕作放棄地となるケースも増えています。耕作放棄地になると、雑草が生い茂るため、そこを隠れ家にして野生動物が集落に居着くという悪循環も起きています。放置され、草木が伸び放題になった耕作放棄地は地域の景観も損ねてしまいます。地域の人々や関係者が協力して、この問題に取り組んでいくことが求められています。

耕作放棄地が増え続けることによる問題

耕作放棄地が増加し続けると、さまざまな問題が生まれます。 大きな視点で考えると、食料自給率の低下が問題になります。耕作放棄地が増えるということは、農地が減少することを意味するので、自ずと国内の食料の生産量も減ります。国が自給できる食料の割合が減ることは、外国への依存度を高め、食の安全保障に影響を及ぼす可能性があります。国民が食べる食料は、できるだけ国内で賄うのがベストです。

農地の劣化も大きな問題です。耕作放棄地は適切な管理が行われないため、土壌が劣化し、作物の生育が困難な農地になっていきます。耕作をやめて数年経てば、農地の原形を失うほどに荒れてしまい、将来的に農地の回復が難しくなる可能性もあります。同時に、地域の景観が損なわれ、農村としての環境にも悪影響を与えることになります。雑草がはびこり、害虫が増え、野生動物のすみかとなるなど、生態系に変化をおよぼすことにもなりかねません。

中山間地域など上流地域で発生した耕作放棄地は、周辺の営農や生活環境を悪化させるだけでなく、下流地域の国土保全機能の低下をも招くことが考えられます。

また、用排水施設の管理への支障も考えられるし、地域で中心となって農業を担う経営者への農地集積の阻害要因にもなります。土砂やゴミの不法投棄、火災発生の原因となることもあります。

そして、耕作放棄地が増えると、農村の地域経済や雇用に悪い影響を与えることにもなりかねません。有効に利用できるはずの土地が放置され、社会的、経済的な価値が損なわれるからです。そうなると、地域のコミュニティが弱体化するおそれもありますし、さらには、地域の伝統や文化が消失する危機を招くことになるかもしれません。

これらの課題に対処するために、耕作放棄地の再生や持続可能な活用、若者が農業に魅力を持つような取り組み、農業政策の見直しなどが求められています。耕作放棄地の問題は地域によって異なりますが、持続可能な農業と地域社会の発展を促進するために取り組むべき重要な課題の一つに違いありません。

耕作放棄地の発生抑制・解消に向けた取り組みの促進

耕作放棄地の発生を抑制するためには、「中山間地域等直接支払制度」や「多面的機能支払交付金」を活用し、地域が力を合わせて発生防止に取り組むことが重要です。中山間地域等直接支払制度は、農業や農村が食料生産以外に担っている役割を重視し、そこを支援していくというコンセプトで始まった制度で、農地を持続させることに対して支援が行われます。農地の面積に応じて、使徒の自由度が高いお金が支給されるため、農家にも評判がよく、もう20年余り継続されています。

多面的機能支払交付金は、農業や農村が持つ多面的な機能を維持したり、機能の発揮を図るための地域の共同活動を支援したり、農地、水路、農道などの地域資源の質的向上を図る活動を支援する助成金制度です。

こうしたお金を集落で上手く活用し、耕作放棄地の発生を抑制したり、解消したりする取り組みを進めていくことが重要です。

とくに、農業振興を図るべき地域として指定されている農業振興地域に発生した耕作放棄地で、再生作業を行えば再び耕作ができるようになると見込まれるものについては、その森林化や原野化を防ぎ、有効利用を図るために、「耕作放棄地再生推進事業」などを活用するのも一つの手です。

耕作放棄地の活用アイデア

耕作放棄地にしてしまう前に、あるいは、耕作放棄地になってしまった土地で、どんな作物を栽培すればいいか、どんな利用を行えばいいか、考えてみましょう。

作業負担の少ない作物を栽培する

耕作放棄地を発生させてしまう理由の一つに、農家の高齢化や耕作するための体力不足が挙げられます。ならば、なるべく作業の負担が少ない作物の栽培に切り替えればいいのではないでしょうか。労力やコストの削減、収穫量の増加などのメリットがあり、持続可能な農業を実現するための重要な手段の一つになります。

たとえば、大豆や麦などの穀物類、サツマイモ、ネギやキャベツなどの野菜類は、肥料や農薬の使用量が少なく、手間のかからない栽培もできるため、作業負担が軽減されそうです。また、一度に大量の収穫ができるので、収穫期間が短くすむこともメリットです。オリーブやブルーベリー、キウイフルーツといった果樹も作業負担が少なく、管理が比較的容易とされています。そんなふうに、作業負担の少ない作物を探して栽培してみてはいかがでしょうか。耐病性の高い品種を選ぶことも大事です。地域の特性に合った作物を栽培すれば、地域ブランドの形成や地産地消の推進にもつながります。

なお、作物を栽培する前に、土壌調査を行ったほうがいい場合もあります。土壌のpH、栄養素の含有量、排水性などを確認し、必要に応じて土壌改良を行いましょう。それによって、適切な農作物の選択と育成が可能になります。

体験型農園を運営する

体験型農園を開設することも、耕作放棄地を活用する一つの方法です。 体験型農園とは、農作業にふれる機会の少ない都市部に暮らす人たちが、農作業体験を通じて、農業の魅力や知識を深めることができる施設です。家族や友人と一緒に、野菜や果物の収穫、種まき、草取り、畑の手入れなど、農作業を楽しく行うことができるので、農業と観光を合わせた新しい形の農業ビジネス、アグリツーリズムとして広まってきています。農園にはレストランやカフェ、直売所などが設けられていることもあります。

季節や収穫の時期に合わせて、さまざまなイベントやワークショップが開催されることもあります。子どもたちが穫れたての野菜をその場で食べたり、調理したりして、食育を体験することも親にとっては大きな魅力です。自分で育てた野菜を食べることで、食への関心が高まり、健康的な食生活を実践することができます。

また、栽培に詳しい農家から農業技術や知識を伝えることができるため、農業を目指そうという次世代の人材を育てることにも役立ちそうです。地域の農業の継続性が高まり、農業に参入する人の増加にもつながります。

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の導入

耕作放棄地を活用する方法として、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の導入があります。ご存知の通り、太陽光発電は太陽の光を利用して電力をつくるので、環境に優しい再生可能なエネルギーであり、農業との親和性が高いものとして注目されています。

耕作放棄地と言えども、もともとは田畑だったところですから、日当たりがいいのは間違いありません。効率的な発電ができるため、初期投資は十数年で回収し、その後は長期間にわたって副収入を得ることも期待できます。

ただし、建設にあたっては、農地転用の手続きはもちろんのこと、地元の自治体や住民との協議が必要となる場合もあります。無断で設置するのはやめましょう。

ちなみに、ソーラーシェアリングで設置した太陽光パネルの下で栽培するのにふさわしい作物があります。光が少なめでも育つネギ、ホウレンソウ、ジャガイモ、キノコ、ニラ、ミョウガなどが栽培しやすいようです。

耕作放棄地を再生するためのサービス

耕作放棄地は、再び農地として活用するか、農地以外の用途で活用するかという2つの方法が考えられます。

農地以外の用途では、駐車場や宅地用の土地として貸し出すといった方法がありますが、農地を転用できるかどうかは、農地の条件や転用後の用途によって異なります。条件によっては転用が認められないケースもあるので注意が必要です。

耕作放棄地を農地として貸借および売買する場合には、農地がある市町村の農業委員会の審査を受け、許可を得る必要があります。無許可での貸借や売買は無効となってしまいます。

耕作放棄地を借りられるサービスもあります。2014年度から全都道府県に設置されている「農地バンク(農地中間管理機構)」です。農地の仲介サービスで、農家でない人も農地を借りることができます。耕作放棄地の所有者や高齢などの理由でリタイアした人など、「農地を貸したい」という人から農地バンクが土地を借り受け、新規就農希望者など農地を探している人に貸し付けます。公的機関を通じた農地の貸し借りなので、借り手は貸し手との交渉は不要で農地を借りられ、貸し手は賃料や協力金をもらうことができます。農地バンクが実施する「借受公募」に応募して、貸し借りを行ってください。耕作放棄地になる前の対策を講じるための相談窓口としても利用できます。

利用できる補助金

耕作放棄地を再生させるための補助金もあります。再生作業や土づくり、必要な設備や施設の整備といった取り組みを支援するための補助金「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金」を利用することができます。重機を使った再生作業費用の半分が支給されたり、耕作を行った場合には10アール(1反、1000平米)につき2万5000円の助成(初年度のみ)が受けられたり、耕作放棄地を再生する際の作業、土づくり、作付け、加工、試験販売などの取り組みや、それに必要な施設の整備、営農開始後のフォローアップといった地域の取り組みを支援します。自治体によっては、その他の補助金制度を用意しているところもあるので確認しましょう。

気になる再生費用

一般的に、耕作放棄地の再生にかかる費用は、土地改良や植栽、施設の設置、管理費用なども含めて、10アールあたり10万円~25万円程度と言われています。地主の皆さんには、所有しているだけでも固定資産税がかかるので、売ったり、貸したりして、有効活用することをすすめます。また、耕作放棄地を有効活用し、地域の課題を解決に導きながら新たな価値の創造を目指し、ビジネスを始める企業や新規就農者も現れています。それによって、地域を元気にし、雇用を生むなど、メリットも生まれています。

遊休農地の定義、1号と2号の違い

遊休農地は、農地法によって定められた「現在、そして将来的に耕作の見込みがない農地」のことで、1号遊休農地と2号遊休農地に分けられています。

1号遊休農地は、「耕作の目的として使われておらず、かつ、引き続き耕作の目的に使われないと見込まれる農地」のことです。現在も将来も、農業に利用される予定がない土地を指します。

2号遊休農地は、「農業としての利用の程度が、その周辺地域における農地の利用の程度に比べて、著しく劣っている農地」のことです。つまり、農業利用が低い土地を指します。家族が食べる分だけの野菜を作っているような農地も2号遊休農地になります。

遊休農地は自治体の農業委員会によって客観的に認定される一方、耕作放棄地は土地の所有者が耕作する意思があるかどうかという主観的な判断が基準になる点が大きな違いです。

ちなみに、荒廃農地は、自治体の農業委員会の調査によって客観的に判断されるもので、「耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地」を指します。1号遊休農地は荒廃農地(再生可能)に分類され、2号遊休農地は耕地に分類されます。

日本の遊休農地の現状

農林水産省の2021年度のデータによれば、全国の遊休農地の面積は、1号遊休農地が9万839ヘクタール、2号遊休地は7692ヘクタールとのこと。千葉県は1号が7024ヘクタールで福島県に次いで全国2位、2号が367ヘクタールで全国7位と、ともに広い面積の遊休農地があります。

農水省は遊休農地の対策を強化し、活用を進めています。その方法の一つは、農家への貸し出しです。農地をそのまま農家に貸し出すというのは最も健全で、農業委員会の許可も下りやすい、スムーズな遊休農地の活用方法です。貸し出した地域の農業者の収入向上にもつながり、地域経済にプラスの影響を与えるでしょう。

貸し出すときには、「農地バンク」や「全国農地ナビ」を利用するのも手です。農水省が設け、農地中間管理機構が仲介している「農地バンク」は、貸し出す側は貸出期間は必ず賃料を得られることがメリットになります。借りる側も、農地中間管理機構を仲介することで、借り受けた場合にさまざまな支援を得ることができます。

「全国農地ナビ」は、インターネット上で農地を探索できるウェブサイトです。衛星写真などの地図から農地の位置や形、また、所有者の農地に関する意向などを調べることができます。

遊休農地を市民農園として再生させる動きも増えてきています。自分の家で消費する野菜や果物、花などを栽培するために農家でない市民に貸し出される農地のことで、近郊都市から週末に日帰りで、手ぶらで気軽に農園に足を運べるものから、クラインガルテンのように宿泊して農作業をじっくりと体験できる農園、農業体験イベントを開催する農園まで形態もさまざまです。開設主体は地方公共団体、農協、農業者、企業・NPOなど。2021年の時点で全国に4235か所、1293ヘクタールの市民農園が存在しています。

さらに、農地転用を行って、農地以外として活用するという方法もあります。キャンプ場や直売所、ソーラーシェアリングをつくることも農地転用の一つです。ただし、遊休農地を農地転生するには、農地法第5条で定めるさまざまな要件を満たす必要があります。

遊休農地の活用事例

農林水産省が紹介している遊休農地の活用事例をいくつかピックアップしました。

山形県白鷹町の荻野地区では、養蚕の衰退で遊休農地の増加が問題化していました。地域住民によるワークショップを行い、営農組織を結成し、農地の集積と生産性の高い作物の栽培をスタート。飲料会社の協力を得て、ワイン醸造用のブドウ栽培を実施したのです。3.72ヘクタールの遊休農地を再生し、新たなブドウ産地として地域に元気を与えています。

長野県松本市では、自動車販売業者と製麺業者という農業以外の異業種連携によって、遊休農地の解消に挑戦。共同出資による農業生産法人を立ち上げ、地域の遊休農地を活用しながら、約198ヘクタールという広い畑でソバや大豆、トマトなどを大規模に生産し、販売しています。

広島県三次市の中山間地域では、農事組合法人が耕作する水田4.1ヘクタールと、荒廃農地0.4ヘクタールに飼料作物を栽培し、肉牛8頭を放牧飼育。放牧によって周辺農地の獣害被害の防止にも貢献しています。

ほかにも、さまざまな形での遊休農地の活用が試みられています。

遊休農地活用の補助金

遊休農地を活用するにあたって、国や自治体はいくつかの補助金を交付しています。多くは、農業や関連産業を振興したり、農地を効率的に集約化するためのものです。

「中山間地域等直接支払制度」は、荒廃農地の解消や復旧に対し、農地の面積に応じて補助されます。「多面的機能支払交付金」は、農業や農村が持つ多面的な機能を維持したり、農地、水路、農道などの地域資源の質的向上を図る活動を支援する助成金制度です。また、「農山漁村振興交付金」は、山村の活性化や農業の振興、インフラ整備、地域の魅力づくりなどを支援します。

ほかに、都道府県でも遊休農地の活用に関する独自の補助金を支給しているので、調べてみてください。

固定資産税

国は遊休農地の活用を促す目的で課税を強化しています。

通常の農地の固定資産税の評価額は「売買価格×0.55(限界収益率)」となっていますが、遊休農地に関しては0.55を乗じないため、実質1.8倍に増えています。「農地バンク(農地中間管理機構)」へ貸し付ける意思を示さなかったり、耕作もしないなど、遊休農地を放置していると税金が高くなってしまいます。

遊休農地の転用の可能性

全国の遊休農地の約65パーセントは原則として転用できない農地になっています。遊休農地の転用を考えるとき、まずは転用できる農地なのかどうかを調べる必要があります。「農用地区域内農地」は、転用できません。農業振興地域は農業を拡大しようとする地域で、農用地区域とその指定を受けない区域に分かれます。農業振興地域は、今後相当期間(おおむね10年以上)にわたって農業の振興を図るべき地域であり、農用地区域は農業用水や区画整理などの土地改良事業がなされた生産性の高い農地なので、原則、転用はできません。宅地など他の用途に変えるのも厳しく制限されています。農用地区域内で開発行為をする場合は、都道府県知事の許可を受けなければなりません。また、農用地区域内にある農地の用途変更および用途変更目的での売買・賃貸借は、農用地利用計画において指定された用途以外は認められていません。

農地には4つの区分がありますが、市街化調整区域内の農地で、とくに良好な営農条件を備えている農地である「甲種農地」や、10ヘクタール以上できちんと整備され、生産性の高い農地である「第1種農地」は、原則として農地転用はできません。 ただし、農用地区域外の農地で、鉄道の駅が500メートル以内にあるなど市街地化が見込まれる農地、または生産性の低い小集団の農地である「第2種農地」は転用許可が下りる可能性があり、農用地区域外の農地で、鉄道の駅が300メートル以内にあるなど、市街地の区域または市街地化の傾向が著しい区域にある農地である「第3種農地」は原則、転用が許可されます。

このように、遊休農地は制限がありつつも、さまざまな形で活用することができるようになっています。農地として活用するか、転用して活用するか、農地区分や農地がある周辺環境を考慮しながら、地域のためにもなる活用方法を見つけ、実践しましょう。

農家になれば、安く買える耕作放棄地

耕作放棄地問題は、業界にとってはとても由々しき事態ですが、新規就農者にとっては、安く買える農地ということもできるかもしれません。もともと就農すること自体がハードルではありますが、クリアできると取得のハードルは下がります。ただし、何十年も耕作を放棄された農地を復活させるためには、努力と時間がかかりますので、その注意は必要です。

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