生徒インタビュー・4期生・滝沢久輝さん(37歳) フリーランス・東京都中央区在住

農地を活用し、子どもたちが遊び、学ぶ場づくりを

自ら立てた問いに対して情報を集め、分析し、まわりの人と協力しながら結論に導いていく学習方法を「探究型学習」といい、主体的に学ぶ姿勢を養うものとして数年前から学校で取り入れられている。そんな探求型学習を中心とした小学生向けの教育事業を、友人と立ち上げた「tanQ(タンキュー)」という会社で実践していた4期生のチャーリーさんこと、滝沢久輝さんは話す。「子どもたちが好きなものに出合い、熱中する状態をどうやったらつくれるかと考え、ワークショップを企画・運営したり、ボードゲームを使って楽しく学んだり、大手出版社とコラボレーションして学べる漫画をつくったりと、さまざまな方法で子どもたちが自主的に探求するきっかけを提供してきました」。

教室のなかでワークショップやゲーム、漫画に夢中になって遊び、学ぶ子どもたちの様子を見守っていた滝沢さんは、「小学生の息子も探究型学習に参加しました。教室で楽しそうに遊び、学んでいたのですが、それ以上に、地方に出かけて山や川などの自然のなかを駆け回ったり、生き物の不思議を発見したりしている時間のほうが、子どもとしてナチュラルな姿に見えてきたのです。ゲームよりも、『井戸掘ろう!』みたいな(笑)」と、子どもたちを教室から自然のなかへ連れ出したくなったという。「ハプニングも含めて、そのほうがリアルな学びがあるでしょうし、理想の探究型学習に近づけるのではないかと思うようになりました」。

「tanQ」を辞めた滝沢さんは、自然のなかで子どもたちが遊び、学ぶことを目的とした事業を立ち上げる準備を始めることにした。「まず、自分が東京から通える範囲の場所に農地を持ち、拠点づくりの足がかりにしたいと考えました。農地の取得って、そんなに簡単ではないんですが、調べたら、『チバニアン兼業農学校』なら農地の取得をサポートしてくれると知り、入学することにしました」。

2023年1月から4期生として学び始めた滝沢さん。入学していちばんよかったことは、「つながりを得られたこと」と言う。「平山校長や同期の生徒とのつながりはもちろん、平山校長が紹介してくださった睦沢町の地元の方とお知り合いになれたことがいちばんうれしかったです。今、借りている農地も地元の方の紹介で得られましたし、探求型学習の準備のためにテントを張る場所を利用させてもらっているのも地元の方のサポートがあるからこそ」と、地元住民とのつながりの大切さを強調する。

滝沢さんが借りた農地は1反ほどで、23年の夏はキュウリやズッキーニ、オクラ、トマト、大豆、スイカなど、東京からやってきた子どもたちが、「植えたい!」と言ってホームセンターで選んだ苗を一人3株ずつ育てたそうだ。「東京の子どもたちなので、睦沢町へ頻繁には来られませんから、僕が週に1回ほど来て野菜の写真を撮り、ラインで送ってあげました。自分が植えた苗が育っていく様子を写真で知った子どもたちは、『見に行きたい!』と言うそうです。自分で苗を植えることが睦沢に来る理由になるし、睦沢に愛着を持つきっかけになると確信しました。東京から睦沢に足を運んでいるうちに、睦沢が子どもたちの『第二の故郷』になれば素敵ですね」と滝沢さんは笑顔で話す。

週末、東京に暮らすファミリーが睦沢を訪れ、畑で野菜を収穫したり、テントを張ってBQQを楽しんだり、野山を駆け回ったりと、自然のなかで遊び、学ぶ機会を提供してきた滝沢さん。試験的なイベントを何度か実施するなかで、「日帰りだと時間的に忙しい」ということに気づいた。「東京から睦沢は高速道路で、空いていたら1時間半、渋滞していたら2時間半かかってしまいます。日帰りイベントだと羽を広げて遊び、学ぶ時間を取りにくいことがわかりました」。

もっと余裕を持って自然と向き合えるようにしたいと願った滝沢さんは、ファミリーが泊まれる場所を設けて、1泊2日のプログラムを実施することを考えた。ところが、「日帰りなら問題ないのですが、1泊2日のプログラムを企画しようとすれば、旅行業務取扱管理者の資格を取るか、旅行代理店と一緒にプログラムを企画するかなど、簡単には進められないことがわかりました」。そんな滝沢さんの計画を応援しようと、平山泰朗校長は農地を転用して拠点を設ける方法を勧めた。「農地転用してキャンプ場をつくるという平山校長のアイデアもおもしろそうです。検討してみて、学校のモデルケースとなるようなものがつくれたら最高ですね」。ただ、農地転用できて、そこに建物を立てるときにも、基礎づくりから行うとそれなりの土木費用がかかることが予想される。電気を引いたり、雨が降っても水がたまらないようにしたり、最低限の整備は必要だ。「いかに安全で、快適で、リーズナブルな拠点をつくるかがポイントです。キャンプ場を含めて、宿泊所をつくるにはどんな方法があるのか、絶賛模索中です」と滝沢さんは現状を語る。

拠点づくりと並行して、滝沢さんは「カイタク団」という組織を立ち上げ、「カイタク学習」というキーワードを掲げて、探求型学習を超える遊びと学びのスタイルを構築しようと取り組んでいる。「人間はホモサピエンスの時代からずっと開拓してきた生き物です。新しい土地を求めて移動し、狩猟採集や農耕の文化を築いてきました。開拓するなかで、さまざまな“初めて”に出合い、対応し、学んできました。人は開拓から学ぶ生き物なのです。都会に暮らす子どもたちも、睦沢の自然や農地を開拓するなかで、豊かな感受性や物事を見る目を養ってほしいです」と滝沢さんは未来を見据える。子どもたちの未来のための場づくりを実現することは、滝沢さん自身の人生の「開拓」でもあるに違いない。

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