農地法、わかりやすく解説

農地法の目的

農地法は、農地を国民の食料生産に不可欠な限られた貴重な資源として位置づけています。この法律の主な目的は、農地の無秩序な転用を規制しつつ、効率的な農業利用を促進することです。具体的には、これまでの「耕作者自らが所有する」という原則を維持しながら、地域の実情に合わせた効率的な農地利用を推進し、最終的に食料の安定供給に貢献することを目指しています。

農地法では、各所有者の権利を尊重しつつも、農地を農地以外の用途に変更することを厳しく制限しています。これは、無秩序な農地転用が進めば、国内の食料生産基盤が失われ、食料の安定供給が危ぶまれる可能性があるためです。

また、農地法は新規就農に関する条件も定めています。これらの条件は、新規参入者にとっては障壁となる場合もありますが、適切な農地管理と効率的な農業経営を確保するために設けられています。そのため、農地法を正しく理解することは、就農を考える上で非常に重要です。農地法の規定を熟知することで、新規就農者は自身の農業計画をより効果的に立案し、実行することができるでしょう。

 ポイント 

また農地法では、新規就農に関する条件を定めており、ここで定められた条件が新規参入の障壁となっています。そのため農地法を正しく理解することが就農を理解することとなります。

農地法の定義、農地、採草放牧地

農地法では、「農地」と「採草放牧地」という2つの重要な概念が定義されています。一般的には「農地」の方がより馴染み深い用語ですが、法律上はこの2つが区別されています。

1.農地の定義:
農地法では、「農地」を「耕作の目的に供される土地」と定義しています。ここでいう耕作とは、土地に労力を投じ、肥培管理を行いながら作物を栽培することを指します。
2.「採草放牧地」の定義:
「採草放牧地」は、「採草又は家畜の放牧の目的に供される土地」と定義されています。この用語は一般的にはあまり使用されませんが、法律上は重要な概念です。

農地の地目としては、主に「田」と「畑」の2種類があります。ただし、これらの地目は栽培作物を限定するものではありません。例えば、田んぼで稲以外の作物を栽培したり、畑で稲作を行うことも可能です。つまり、農業経営の柔軟性を確保するため、地目にとらわれず様々な作物栽培が認められているのです。

農地法におけるこれらの定義は、農地の保護と有効利用を図るための基本的な枠組みを提供しています。農業従事者や土地所有者は、これらの定義を理解した上で、適切な土地利用を行うことが求められます。

農地法3条による権利移動

農地法では、耕作目的での権利移動を3条で規定しており、この場合の権利移動は、農地→農地となり、所有権、賃借権も同様に耕作者間となります。またこの所有権等の移転に関しては、当該行政の農業委員会の許可が必要となります。

この際に農業委員会より許可を得るためには、下記の許可要件を満たす必要があります。2023年4月に最低下限面積が撤廃されたため、一番困難であった要件が無くなりました。

1.全部耕作要件
取得後に農地等のすべてを効率的に利用して耕作等を行うこと
2.常時従事要件(農地所有適格法人を除く)
原則として年間150日以上の農作業に従事すること
3.地域調和要件
周辺の農地等の効率的・総合的利用に支障がないこと

法人の農地取得に関しては、別途要件を求められますが、複雑となるので、ここでは省略しています。

これらの要件は、農地の適切な利用と管理を確保するために設けられています。全部耕作要件は、取得した農地を遊休化させることなく有効活用することを求めています。常時従事要件は、農業を主たる生業とすることを期待しているものです。地域調和要件は、新規参入者が既存の農業コミュニティと協調して活動することを求めています。

賃貸借の解約等の制限

農地の賃貸借契約には、特別な更新ルールが適用されます。契約期間満了の6カ月前までに更新しない旨の通知がない場合、自動的に同一条件で契約が更新されます。この規定は、農地の安定的な利用を確保するためのものです。

賃貸借の形態には、現金による賃料支払いだけでなく、物納や使用貸借も含まれます。物納とは、収穫物などで賃料を支払う方式です。一方、使用貸借は無償で農地を貸し借りする形態です。

農地の利用目的が制限されているため、賃借料は一般的に低めに設定される傾向があります。これは、農地の保全と有効活用を促進するための措置といえます。

農地法の規制により、農地の多目的利用が制限されているため、賃借人にとっては比較的安価な賃料で農地を借りることができるメリットがあります。一方で、貸主にとっては収益性が低くなる可能性があることに注意が必要です。

農地の転用規制(4条、5条)

農地転用とは、農地を農地以外の用途(雑種地、宅地等)に変更することを指します。農地法の主要な目的は優良な農地を保護することですが、農地は原則として転用が厳しく制限されています。しかし、一定の条件を満たし、やむを得ない場合には、農地転用が許可されることがあります。

農地法における転用規制は主に4条と5条で定められています。これらの条文の違いは以下の通りです:

  1. 4条転用: 農地の所有者または借権者が自ら転用する場合に適用されます。
  2. 5条転用: 農地の所有者以外の第三者が、所有権や賃借権などを設定して転用する場合に適用されます。

具体例を挙げると、田舎の農地で見かける太陽光発電施設の設置の場合、元々の所有者が実施するなら4条転用、他の事業者が権利を取得して行うなら5条転用となります。

農地転用には厳格な審査基準が設けられていますが、一方で農地の固定資産税は比較的低く抑えられています。これは、農地の保全と有効利用のバランスを取るための政策的な配慮と言えるでしょう。

転用の許可にあたっては、当該農地の営農状況、周辺の土地利用状況、農業振興地域整備計画との整合性などが考慮されます。また、転用目的や転用後の土地利用計画の妥当性も重要な判断基準となります。

農地法まとめ

農地法において、就農に関する主要な部分は農地売買や賃貸借で原則3条が関係してきます。下限面積要件は撤廃されましたが、新規就農の場合に求められる要件としては、年間150日以上の営農日数や技術要件などが挙げられます。また、一部の農業委員会では専業農家を重視する傾向があり、これらの要因が新規参入の障壁となっています。

農業従事者人口の急激な減少により、耕作放棄地が増加しており、新規就農者に対して担い手としての期待が高まっています。しかし、全ての農地が有効活用できるわけではありません。収入の少ない農業者にとっては、状況に応じて農地転用や粗放栽培、農地除外による山林化なども検討する必要が出てくる可能性があります。

そのため、新規就農者は農地法を十分に理解し、様々な活用方法を考慮に入れておくことが重要です。また、地域の実情や農業委員会の方針なども把握しておくことで、より円滑な就農が可能となるでしょう。

さらに、農地法の改正や農業政策の変更にも注意を払い、最新の情報を常に入手するよう心がけることが大切です。これにより、農地の効率的な利用と新規就農者の参入促進の両立が図られ、持続可能な農業の実現に貢献することができるでしょう。

参考
農地法の規制とは?|フォーサイト
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