日本一の農業県はどこか~農業の通信簿

日本一の農業県はどこか~農業の通信簿

県別の農政の価値を今までと違う基準で開設した本。稲作が残っている場所こそ、収益性が低く、カロリーベースが高いという指標はとても面白い。この本では、1円の補助投資で、いくら収益が上がるかという試算をしているが、実は群馬県が国内で一番高いという。

ほとんどの農業本は、現状の農政批判が多いが、問題提起により是正がされた事例がほとんどないような気がしている。もちろん、農政がどうでもよいわけではないが、個人としては、淡々と自分の家族分の自給率を100%達成することがシンプルに目的としやすいかと思う。ただ現状の誤った農政の参考を学ぶためには参考にはなるかと思う。

本の概要

日本一の農業県はどこか。こう聞かれたらどの都道府県を思い浮かべるだろう。北の大地・北海道か、米どころの新潟や秋田だろうか。

本書の目玉となるランキングで1位を飾るのは、おそらくほとんどの人にとって意外な県である。私自身、自分で算出した結果の予想外さに、困ったことになったと思った。当該の県庁にも困惑され、高名な学者からは「えっ、そうなの」と言われ……。完成した本を前に、当初の目論見とずいぶん違う目的地にたどり着いたなと感じている。

都道府県の農業を費用対効果(コスパ)でランキングする――。この試みが本書の柱となっている。

農業は効率が悪くて儲からない、だからコスパとは縁遠いと思われがちだ。この認識は誤りで、農業でも百億円以上を売り上げる企業が存在する。

日本の農業に投じられる予算は多く、全体を捉えれば「補助金漬け」と言っていい状況にある。しかし都道府県別にみると、補助金に極めて依存する県とそうでない県の落差が激しい。

その違いを明らかにすべく、都道府県の農業の売り上げ額を予算で割り、コスパを算出した。1位がどこなのか、そしてあなたの住む県や出身県がどんな成績なのか、ぜひ確認してもらいたい。

「農業の通信簿」という副題の通り、コスパ以外にもさまざまなランキングを載せている。労働生産性や農地の集積の具合、食料自給率など。都道府県の生産基盤が現在どうなっているか、課題と強みは何かというところまで、なるべく掘り下げたつもりだ。

その農業の現状は、私たちの生活と分かちがたく結びついている。

たとえば、昨年からオレンジジュースが販売休止になったり、値上がりしたりしている。世界的な不作や円安が影響しているものの、そうであれば、原料を国産の柑橘に切り替える選択肢もあるはずだ。

そうならないのは、国内で柑橘の生産量が減っているから。とくに和歌山と愛媛という「みかん県」は、農家の高齢化や人手不足に悩まされ、生産量を落としている。ジュース用には基本的にハネ品を使うので、その供給量は生産量と連動して減ってしまう。

高島屋のクリスマスケーキの一部が崩れた状態で届き、年の瀬に謝罪会見が開かれた。その遠因と考えられるのが、昨夏の猛暑が影響したイチゴの品薄だ。品薄には今後拍車がかかると予想されている。根強い需要とは裏腹に、手間がかかるイチゴを栽培する農家は減っていく。

あなたの食卓の広大なバックヤードである農業現場は、今後どうなっていくのか。それを考えるヒントにぜひ本書を手に取ってみてほしい。(作者談)

目次


はじめに
第1章 コスパ最高の農業は群馬にあり
 1 魅力度ランキングでは低空飛行でも
 2 国の指標では評価されない実力
 3 誰も知らない北関東の高い財政効率
第2章 コメだけやっていても先がない
 1 コシヒカリをバカにした静岡県知事
 2 茨城の「たまげた」 コメ減産計画
 3 「コメの一本足打法」から脱却したい王者・新潟
第3章 サトウキビで太り過ぎの沖縄農業
 1 サトウキビは沖縄のコメ
 2 キューバ危機で拡大したサトウキビ
 3 農家だけでなく農地まで急減の危うさ
第4章 海外に伍する産地 労働生産性と土地生産性
 1 労働生産性は全産業の3分の1
 2 労働生産性の3トップ、 北海道・関東・南九州
 3 愛知から大分に移住した「機関車農家」
 4 人手不足とは無縁の新規参入キュウリ農家
 5 高知が「園芸のコスパ日本一」の理由
第5章 農地の集積 農業における最大の課題
 1 儲からないコメが多くて集積進む富山・石川・福井
 2 北関東、埼玉、愛知では大規模農家が担い手に
 3 農家版「そして誰もいなくなった」
 4 集積遅れる果樹産地、山梨・和歌山・愛媛
 5「みかん県」の生き残り戦略
 6 リンゴの新技術導入で先んじる長野
第6章 食料自給率―むしろ有害なガラパゴス指標
 1 自給率が上がるほど都道府県の農業は衰退する?
 2 なぜか食料自給率を自慢する7位の佐賀
 3 自給率0%でもすごい東京の農業
おわりに

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