農業消滅:農政の失敗がまねく国家存亡の危機

本書の解説

日本の農政問題を深く掘り下げた本が、国内外の農業政策とその影響について鋭く分析しています。特に、日本が車の輸出拡大のために農業を犠牲にしたという事実を、元農水省出身の作者がわかりやすく解説している点は、多くの読者に新たな視点を提供しています。しかし、この本で提案される解決策については、いくらか物足りなさを感じます。

農業の大規模化が進む現状に対し、単に農家の数が減少しても良いという結論に至らない理由は、農家が果たしている役割の多様性にあります。農家は、単に収量を増やし、食料自給率を高めるだけではなく、農村地域の持続可能性やコミュニティの維持といった、さらに広範な課題に対応しています。彼らの存在は、農業だけでなく、地域社会全体の活性化にも不可欠なのです。

また、兼業農家に対する有識者の発言を引用した部分は、特に注目に値します。これは、兼業農家が直面する現実とそれに対する社会の理解に関して、深い洞察を提供しています。兼業農家は、農業生産性の向上だけでなく、地域社会の持続可能性に寄与するという重要な役割を果たしており、この点が充分に認識されるべきだと示唆しています。

兼業農家がコンバインから何から揃えるのではなくて、例えば、収穫時期なんかだったら、仮に半農半Xで平日はほかの働きをしているとすれば、土日は、オペレーターとして、コンバインを動かせばいいのです。

大規模の経営体は、助かるのです。そのオペレーターがついでに自分とこの田んぼも刈っちゃうみたいな。そうするとオペとしての収入もあるし、自分の田んぼも維持できるし、コンバイン等を持つリスクもない(後略)

「農業消滅」本の紹介


農業消滅

目次


 はじめに
 序 章 飢餓は他人事ではない
 第1章 2008年の教訓は生かされない
 第2章 種を制するものは世界を制す
 第3章 自由化と買い叩きにあう日本の農業
 第4章 危ない食料は日本向け
 第5章 安全保障の要としての国家戦略の欠如
 終 章 日本の未来は守れるか
 あとがき
 付録:建前→本音の政治・行政用語の変換表

概要

徹底した規制緩和で、食料関連の市場規模はこの30年で1.5倍に膨らむ一方、食料自給率は38%まで低下。農家の総収入は13.5兆円から10.5兆円へと減少し、低賃金に、農業従事者の高齢化と慢性的な担い手不足もあいまって、農業消滅が現実のものになろうとしている。人口増加による食料需要の増大や気候変動による生産量の減少で、世界的に食料の価格が高騰し、輸出制限が懸念されるなか、日本は食の安全保障を確立することができるのか。農政の実態を明かし、私たちの未来を守るための展望を論じる。

新着
国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係
新着
10万円で買える山林より畑を買え!