芝山町で農家になる!? マツケン参場vol.2


5期・松健(54歳)

成田国際空港に隣接しているまち、千葉県・芝山町。東京からのアクセスは、電車なら京成線に直通する芝山鉄道の芝山千代田駅から東京駅まで約1時間半、高速バス「成田シャトル」(現在は運休中)なら大崎駅(品川区)と最短72分で結んでいる。ちなみに、芝山鉄道はわずか2.2キロの日本一短い路線として、鉄ちゃんたちから一目置かれている…はず。人口は7000人弱。多くの市町村と同様、人口減少は否めない。農産物は米を中心に、スイカ、ニンジン、トマト、カボチャ、そして花などが栽培されている豊かな地域だが、後継者不足や耕作放棄地の問題は当然のように抱えている。一方、町のあちこちにはにわの像が立っているように、たくさんのはにわが出土したことでも知られ、町立の「芝山古墳・はにわ博物館」もある。そんな芝山町を、2023年4月16日(日)、チバニアン兼業農学校の生徒29名が、芝山町役場の担当者や農事組合法人白桝のメンバーが運転する車に分乗し、見学した。

白桝集落の農地や格納庫を見学

成田国際空港を出発したチバニアン一行は白桝集落へ向かった。点在する耕作放棄地を「ここも耕作放棄地」「ここもそう」と雑草が茂った畑らしき農地を、走る車の中から眺めながら、農事組合法人白桝が借りて耕作している畑に到着。車を降り、事務局の小嶋英志さんが拡声器を手に説明を始めた。「ここは6反、5000平方メートルの畑です。今、ジャガイモを植えています。向こう側はマルチを張っているので生育が早く、6月上旬には収穫できます。緑肥を行っていて、ライ麦などを育ててからトラクターですき込むと、有機質の多い土壌に改善できます。緑肥を育てると雑草が生えにくいので、草刈りの手間も省けて一石二鳥です」と畑を解説。ジャガイモの前にはホウレンソウを栽培し、いい価格で売れたそうだ。売上の半分で資材費や地代などを支払い、残り半分を耕作したメンバーの労働時間によって按分した。「栽培技術はもちろんですが、農業経営や税金、補助金などについても考えたほうがいいですね」と生徒たちにアドバイスし、「よかったらジャガイモの収穫体験に来てください」と呼びかけた。

次に訪れたのは、農事組合法人白桝の格納庫。ガラガラガラとシャッターが開くと、トラクターをはじめ、田植え機、コンバイン、ニンジンの収穫機、肥料散布機、そして、自走草刈機など、さまざまな機械が所狭しと並べられていた。メンバー16名のうち、田畑を耕作している半数ほどのメンバーがシェアし、使用料を払って使っているそうだ。「機械が故障したらどうしますか?」という生徒からの質問には、「使用者の操作ミスで故障したのか、機械の経年劣化で故障したのかを話し合って、どうするかを決めます」とのこと。機械の購入に際しては補助金も活用している。「補助金制度を学ぶことも農業経営のプラスになるので、国や地方自治体の情報にアンテナを張っておくことも大切」と小嶋英志さんは話した。

白桝集落には、岩崎弥太郎や渋沢栄一との血縁関係にある住民が所有する築200年、あるいは築300年とも伝わる古民家を見学した。古びてはいるものの、壮観な佇まいには圧倒させられた。お金はかかるだろうが、リノベーションを行えばかなり立派な住まいになるし、農家レストランやシェアハウスといった都会の人と町民が交流するコミュニティスペースとしても活用できるのではないかと、勝手な妄想がいくらでもふくらむ素敵な建物だった。

天然芝圃場とブルーベリー農園

成田国際空港の開港時、離着陸する航空機の直下にあたる地域の住民は、「騒音が生活の妨げになる」と家の敷地や農地を売却して移転することを選んだ。空港周辺にはそうした移転跡地が点在していて、活用されることなく放置されていたため、「NPO法人成田臨空スポーツ文化推進ネットワーク」理事長の柿原淳男さんは、移転跡地で芝を育て、学校やスポーツ施設に移植してグランドを芝生化するなど、ユニークな取り組みを開始した。「稲作や野菜づくりだけが農業ではないと考え方を切り替えて、芝の育成に取り組んでいます」と、大台という集落にある移転跡地を成田空港株式会社から芝山町を通じて借り、「大台GREEN FIELD」と名づけ、芝生を育てている。2017年に日本サッカー協会の協力を得て、地域の子どもたちと一緒に育てた芝を八街市にある千葉黎明高等学校のグランドに移植し、芝生化。緑まばゆいグランドになった。

「大台GREEN FIELD」の圃場の広さ(農地側)は約3500平方メートル。成人のサッカーグランドをつくるには面積が足りないが、ジュニアチームの練習を行うには十分な広さだ。「本来はサッカーグランドとして子どもたちに使わせてあげたいのですが、農地であるためにそれができません。農地転用も簡単ではなく、たとえ転用できたとしても地代が高くなるでしょうから、それも厳しく、板挟みという状況です」と柿原さんは本音を吐露する。「何かいいアイデアがありましたら募集中です」と、芝山町に天然芝のサッカースタジアムをつくるのが夢だと語る柿原さんは、芝づくりやその事業化に向けて一緒に活動してくれる生徒を募った。

鈴木農園の鈴木正則さんも50歳頃からブルーベリー農園を始めた。「もとは祖父母がジャガイモなどを栽培していた農地でしたが、やがて遊休農地になり、竹がはびこって荒れてしまいました。そこを開墾し、少しずつ手を加え、ブルーベリー農園として整備しました」と経緯を話す。今は直売所だけでなく、市場にも出荷するほどおいしいブルーベリーを生産している。さらには、東京で暮らしている姪の方がブルーベリー畑で結婚式を挙げた素敵な思い出や、芝山仁王尊にお参りに行くための山中古道が荒れてしまっていたため、高知尾さんら集落の人たちと協力しあって、約2キロにわたって整備したことも話してくれた。農家になるということは、集落の人たちとつながりを持ち、助け合いながら暮らしていくことが大切なんだと改めて気づかされた。

芝山町での農業の可能性は?

3時間ほどの見学ツアーが終わり、一同は「福祉センター やすらぎの里」の大広間に集合。話し合いの時間が持たれた。冒頭、農事組合法人白桝理事長の小嶋勝俊さんが、「長男だから農家を継ぐというならわしは、私たちの世代で終わりました。高齢化し、後継者もいない農村は衰退せざるを得ず、それは芝山町に限らず日本全体に言えること。だからこそ、皆さんのように農業や農村に価値を見出そうとされる方々とコラボレーションしたいと考え、町を案内させていただきました。一つひとつ課題をクリアしながら、兼業農家になりたいという皆さんの夢を実現しつつ、集落や町の農地を守っていけたらと思います」と、これからの集落の農業のあり方を語った。

その後、チバニアン兼業農学校の生徒から質問や意見が出された。質疑応答の詳しい中身はブログでは割愛するが、主に次のような質問があった。芝山町で農家になるための手続きについて、農業の初心者を受け入れる体制(農業技術の習得や機械の貸し出しなど)、農地を貸したい&借りたい両者のマッチングの仕組みづくり、二拠点生活や移住ができる住宅の斡旋など、芝山町で農業を始める流れや、始めるにあたって芝山町側、チバニアン兼業農学校側が互いに取り組むべきことが話し合われた。そして、両者ともに宿題を持ち帰り、今後の話し合いの場で歩みを進めていくことを約束し、解散となった。「農家になり、農業を始めるにあたって恵まれた環境があるように見えました。芝山町、とても興味深いです」といった声が生徒から上がったように、就農地としての期待値が大いにふくらむ芝山町の見学でした(5期生/松井)

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