森田農園は学びの宝庫! マツケン参場vol.5


5期・松健(54歳)

江戸時代から続く森田農園へ

千葉県流山市の住宅街にある「森田農園」で現地研修が行われた。外部講師として教えるのは、代表の森田晶さんだ。江戸時代から300年以上も続くこの農園を森田さんが受け継いだのは25歳のとき。「もともと飲食業界で仕事をしていました。独立も考えたのですが、農園を運営していた祖父母が高齢となり、農園も縮小傾向にあったので、一念発起して農家に転身することにしました」と森田さんは話す。「それまでは、農業にはまったく関心がありませんでした(笑)。手伝ったこともあまりなかったので、栽培から加工、販売まで、すべて一から学び、身につけていきました」。

一念発起してから6年。今では年間80品目ほどの野菜を栽培し、東京や千葉の八百屋や飲食店に卸したり、駅前やイベントの出店で直売したりするなど販路を開拓し、そこで自分で値付けをして販売している。さらに、焼き芋やジェラート、焼き栗といった加工品も販売する都市型の農家として活躍中だ。

農園の広さは1町2反歩ほど。家の前にあるメインの農地はそれほど広くはないが、「広くないからこそ、一つの野菜が終わったらすぐに次の野菜を植えるというように回転率を上げることを心がけています。都市型の農家は限られた面積で勝負しなければいけないので、回転率は重要です」と生徒たちに畑を案内し、トマト、キュウリ、枝豆、万願寺とうがらしなどハウスや露地で育てている野菜の栽培方法を教えてくれた。ポイントをメモしたのでここに残しておく。

トマト…森田農園では真ん中の成長点だけを残し、脇芽をすべてかき取り、主茎を1本にする1本仕立てで栽培。実が大きく育つため、多くの農家は1本仕立てを採用。脇芽を1本残して主茎を2本にする2本仕立てもある。大きくはないが実がたくさん生る。質なら1本仕立て、量なら2本仕立て。元肥も追肥も行うが、水はあげすぎないように。アザミウマなど病害虫対策として適度に農薬も使用。受粉は人工的に行い、成長調整剤も使用。1本で12段の枝を伸ばし、1段5個として60個収穫。トマトは終わりが一緒なので、早く栽培を始め、追肥を欠かさなければ、たくさん採れる。露地栽培では、乾燥していて急に雨が降ると実が割れるので、簡易的な雨よけの設置がおすすめ。

キュウリ…多くはネットを張り、ツルを這わせて栽培するが、森田農園では紐で吊り下げ、トマトと同様、1本仕立てのようにして栽培。葉っぱなどに実が当たるとそこからキュウリが曲がるので、当たらないように注意。キュウリは収益性が高く、長く採れるが、病気になりやすく管理が大変だそう。

枝豆…茎の背が低ければ低いほどいい。窒素が多いと葉ばかりが茂り、実がつきにくい。窒素、リン酸、カリの割合が難しい。露地栽培をする場合は、ヨトウムシやアブラムシ対策としてもトンネルを設置したほうがいい。

トウモロコシ栽培のコツ

今回の研修は2023年5月20日(土)で、畑にはトウモロコシが青々と葉を広げ、元気に育っていた。味来(みらい)という品種で、森田さんの背丈ほどまで伸びた畝、脚の長さぐらいの畝、膝までぐらいの畝と、成長は3段階に分かれていた。その理由は、「植え付けの時期をずらすことで、リレーするように収穫できるから」とのこと。横に3つの穴が開いた黒マルチを敷き、1穴に1個の種を直播き。最初に植えたトウモロコシは3月で、まだ寒い日もあったため苗を育てて畑に定植したそうだ。

1本につき1~2個の実が生るが、1個はヤングコーンとして収穫し、飲食店に卸している。「生でも、軽く焼いてもおいしいですよ」と1本採り、女性生徒に。「あ、おいしい」と笑顔を見せた。残した1個の実に栄養を集中させ、丸々と太いトウモロコシを育てる。30センチ間隔で、やや混み合った感じで栽培しているのは、農地を有効活用し、収量を増やすための方法だ。

ただ、密集すると害虫もつきやすくなる。気をつけたいのは、アワノメイガという蛾の幼虫。森田さんは適度に農薬を散布することで、トウモロコシの大敵であるアワノメイガを防いでいる。「アワノメイガは、茎の上部の雄花の匂いに誘引されるので、花粉が雌花(ヒゲの部分)に落ちて受粉したら、雄花は切り取ってしまいます。そうすれば、害は防げます。ただ、受粉したかどうかの見極めが難しいので、雄花を棒で軽く叩きながら畝間を歩くなどして確実に受粉させる人もいます」。

また、「トウモロコシは肥料をたくさん食べるので、追肥も大事。膝丈で1回、背丈で1回、実ができて1回、畝周りに追肥を行い、大きく育てています」とアドバイスをくれた。ヒゲが茶色く、チリチリになり、肩(先端の方)までしっかりと実が詰まってきたら収穫の合図。早い時期のトウモロコシは1本300円で販売しているそうだ。「収穫が終わったトウモロコシは、農協から借りる手押しのチッパーで粉砕しながら畝の中に埋め込みます。緑肥の代わりになります」とのこと。その後、秋になればここでホウレンソウやレタスを育てるそうだ。効率重視の都市型農業を実践する森田農園、来るたびに違う野菜が植えられている。

いい質問です!

農業資材が置いてある作業場を見学し、肥料や、使っている機械を見せてもらった。サツマイモは熟成が大事なので、収穫してから冬の間、12度程度に保っておくための設備も説明してくれた。そこで、男性生徒から森田さんに、「サツマイモを収穫した後、どんな野菜を植えるのが適していますか?」という質問が飛んだ。「いい質問ですね」と森田さん。「サツマイモは痩せた土地が合っている作物で、肥料も少なければ少ないほどいいです。窒素分が多いとツルばかり伸びて、味も悪くなります。ですから、僕も圃場を拡大しようとして放置された農地を借りるとき、そこにはまずサツマイモを植えます。雑草だけ気をつければ管理は難しくありません。ただ、サツマイモの収穫後に何を植えるかが問題です。別の野菜を植えようとすれば肥料が必要となり、来年そこにサツマイモを植えにくくなります。栽培時期は被りますが、落花生とかなるべく肥料が少なくてすむ野菜が適しています」と森田さんは答えた。男性生徒は、「肥料をたくさん食べるとおっしゃったトウモロコシは?」と質問。「これも栽培時期が被りますが、1年置きなら可能です」。今度は女性生徒から、「スナップエンドウはどうでしょう?」と。「これも時期が微妙に被りますが、サツマイモを遅く植えたらできなくもないです」と森田さん。どうやら、サツマイモの栽培は難しくはなさそうだが、栽培していない時期にそこに何を植えるのか、肥料設計も踏まえて考える必要がありそうだ。

草取りのご褒美に収穫体験!

午後からは、車で5分ほど離れた別の畑で草取りを行った。植えられているのはペコロス。そのか細い苗のまわりに少なからず雑草が生えている。それを1本1本、指で摘んで抜き取る作業だ。畝間の通路にしゃがみ、隣の人と話をしながら、気軽な感じで抜き始めたが、雑草は意外と根深く、抜き取る指にも力が入ってきて、しだいに話もせずに黙々と抜く時間が続いた。30分、1時間と続けていると指が痛くなり、力が入らなくなってきた。

雑草と言えば、昭和天皇が皇居を留守にした際に、侍従が吹上御所の庭の雑草をきれいに刈り取ったところ、戻ってきた天皇に「なぜ刈り取ったのか?」と理由を尋ねられ、「雑草が生い茂っておりましたので」と答えた。すると天皇は、「雑草という名前の草はない。どの植物にも名前があるんだよ。人間の都合で雑草と決めつけて刈り取ってしまってはいけません」というような言葉でたしなめたそうだ。植物学者でもあった昭和天皇の有名なエピソードを思い出しながらも、尽きない雑草を「ヨイショ、ヨイショ」と抜き続けた。農業は雑草との戦いですから。

草取りが終わり、痛む腰を叩いていると、うれしいご褒美があると聞かされた。野菜の収穫体験だ。家の前の畑に戻って、アロマレッドという品種のニンジン、三太郎大根、サニーレタスを収穫させてもらった。「ニンジンは葉の背が高く、根元の茎がしっかりしているものを抜いてくださいね」と森田さん。生徒たちは背の高い葉をかきわけ、根元をチェックしながら、「大きい!」とか「おいしそう!」と声を上げながら、きれいなニンジンを3本抜いた。この収穫の喜びというのは独特の高揚感がある。大昔から僕らのDNAに刻まれた感情なのだろう。300年以上続く農地を受け継いだ森田さんのDNAにも先祖代々、その感情は強く刻まれているに違いない。

ちなみに、森田農園では毎週土曜に援農を受け付けている。さまざまな野菜の栽培手順やポイントも、聞けば森田さんが教えてくれる。勉強にもなるので、ぜひ問い合わせて参加してみてください!(5期生マツケン)