農家への扉を開く、5期生の入校式! マツケン参場vol.4


5期・松健(54歳)

「どこで、何を」が肝心

2023年5月13日、いよいよチバニアン兼業農学校5期生の入校式だ。場所は、JR千葉駅から徒歩10分ほどの千葉商工会議所のセミナールーム。並べられたテーブルには、チバニアン史上最多となる41名(欠席者もいたので当日は30数名)の生徒がフレッシュな顔を揃えた。

マイクを手に壇上に登ったのは、平山泰朗校長。衆議院議員としてのキャリアも持つのでマイクと演壇がよく似合う。「これから日本がどんな国になっていくのか。不安要素も多いなか、自分や家族の生活をどうやって守っていくか考えなければいけません。日本の食料自給率は38パーセント。ずいぶん前から議論されている問題ですが、劇的に高くなることがないなら、自分や家族の食料自給率を上げるしかない。米は1反で5人のおなかを満たします。それも兼業農家になるメリットだと思います」と挨拶し、兼業農家という未知なる世界に生徒たちを誘った。

続いて、自己紹介。多様なバックグランドを持つ生徒たちが、仕事や趣味を語りながら、「どこの農地で、何の作物を育てたいか」という希望を述べた。まだ学校はスタートしたばかりなので、「どこで、何を」は「これから考えたい」という生徒も多くいたが、この「どこで、何を」は、農業の入り口にある最初の扉のような気がする。自分が暮らす市町村なのか、睦沢町や芝山町などチバニアンと連携する地域か、二拠点生活をするのか、移住するのか。初心者の自分でも育てられる作物か、売ることでどれくらいの収入を見込むのか、6次産業化で稼げる農業に挑戦するのかなど、「どこで、何を」には人生後半の生き方を左右する大いなるクエスチョンが含まれていると言っても過言ではない。チバニアン兼業農学校への入校を考えている方は、ご自身の今後の人生に思いをめぐらせつつ、検討してほしい。そうすれば、入校時にいいスタートが切れるはずだ。

千葉のブラックジャック、登壇

自己紹介が終わると、休憩をはさみ、授業が始まった。登壇したのは、越川幸芳先生。テーマは、「農地取得実践」。平山校長が、「誰でも農業者にしてしまう、千葉のブラックジャック」と紹介するように、越川さんは市町村の農業委員会の上部組織となる千葉県農業会議に40年近く勤めた、新規就農のスペシャリスト。とても頼りになる僕らの強い味方だ。

授業ではまず、千葉県で農業を始める際の悩みごとや困りごと、たとえば「基礎から農業を学べる研修を受けたい」とか、「国の補助金を活用したい」とか、「自分に合った農地を取得したい」といったことを解決するためにある相談窓口を教えてくれた。

また、県内の各市町村には農業委員会が設置され、新規就農者の受け入れに取り組んでいるが、なかでも力を入れて新規就農者を支援している自治体を「ここだけの話」として紹介。「そんな自治体があるなら、ぜひ就農地として検討したい」と思わせてくれる貴重な情報だった。

午後からは、千葉県で新規就農を成功させるためのポイントについて語った。「兼業で小さな農地でもかまいません。収支のバランスが取れる農業経営をすることが大事で、そのためには、その地域で多く栽培されている野菜を、売り先を確保してからつくること。有機野菜や珍しい作物もいいのですが、まずは普通に作物をつくり、軌道に乗ってから自分のつくりたいものに挑戦するのが成功の秘訣です」と越川さんはアドバイスする。そして、農家になるための必須書類である「農地法第3条の規定による許可申請書」や「農業経営実施計画書」の書き方も伝授。千葉県で数え切れないほどの新規就農者をサポートしてきた越川さんの経験による「審査に通る書き方」を教わることができた。

今後も、越川さんから新規就農のためのサポートを受けることができるとのこと、心強い限りだ。

ゼミやチームで意見交換も

この日は、千葉県芝山町から農事組合法人白桝の事務局を務める小嶋英志さんも来られ、5期生を前に挨拶を述べた。「実は私も兼業農家です。勤めながら、お米、ニンジン、ジャガイモなどをつくっていました。考えてみたら、日本の農家の約9割が兼業農家で、その存在が日本の農業を支えているわけです。これからの時代、皆さんのような多様な担い手を受け入れることが、地域の農業、日本の農業の存続につながるものと考えています。関係を深めていけたらうれしいです」と芝山町での就農を後押しする。

その後、生徒たちはチバニアン兼業農学校にある3つのゼミ「自然栽培」「省力栽培」「6次産業化」のうち、興味があるゼミに参加し、意見交換を行った。加えて、4期生の髙木智之さんがリーダーを務める「農福連携チーム」、4期生の広瀬陽一さんがリーダーを務める「芝山チーム」も参加者を募り、話し合いを行った。ちなみに、僕が参加したゼミは「省力栽培」で、この日は「東京オリーブ」のプロデューサー・谷山也晃さんが、オリーブ栽培の魅力や可能性について語りつつ、参加者から飛び交う質問にわかりやすく回答。どんどんとオリーブの沼にハマっていく生徒たちの姿があった。

入校式翌日は、田植えとメンマ!

入校式の翌日は、睦沢町の学校圃場の近くにある田んぼで田植えの実践が行われた。植えるのは、長粒種とジャポニカ米の中間の、カレーライスにピッタリのお米。その名も、華麗米。教員の松永義春さんが種籾から育てた苗を田んぼに持ち込み、田植え機にセットする方法から運転方法まで丁寧に教えると、生徒はひとりずつ田植え機に乗り、運転し、苗を植えていった。生徒は田植え機の運転を交替するたびに、「このレバーを引いて。次にこう」と運転の仕方を伝言ゲームのように次の生徒に伝えていく。僕も生まれて初めて田植え機に乗り、田植えを体験した。失礼かもしれないが、「子どもの頃に乗ったゴーカートみたいで、おもしろかった!」。ジャンボタニシにやられることなくすくすくと成長し、夏の風に稲穂が揺れる景色を思い浮かべながら田んぼを後にした。

チバニアンの圃場では、東京都江東区で自家製くんせい「ます道庵」を営む3期生の鈴木真澄さんによるメンマワークショップが行われた。田植えが終わった5期生たちは昼食後、鈴木さんのもとに集まり、メンマづくりを手伝った。

メンマづくりは平山校長も期待大のプロジェクトで、10日ほど前の5月3日にも行われた。そのときは圃場近くの竹林にたくさんの孟宗竹の幼竹が生えていたが、今日14日には幼竹はすっかり大人の竹に成長し、食材となる幼竹は残念ながらほとんど手に入らなかった。「あっという間に大きくなってしまって。でも少しだけ採れたので、それを皆さんでメンマにしましょう」と鈴木さんの合図で作業を開始。幼竹の皮を向き、メンマのサイズになるまで包丁で小さく切っていった。「前回、塩漬けにしたメンマは順調に乳酸発酵を始めています」と鈴木さん。うまく発酵が進み、おいしいメンマができあがった暁には、チバニアンブランドのメンマとして販売することも視野に入れているそうだ。放置竹林の竹害解消にもつながるソーシャルなメンマ。さぞ、うまいに違いない!(5期生マツケン)