米の適正価格はいくらか? 持続可能な稲作と、消費者に伝わる「茶碗1杯」の価格目安


この1年、店頭で「米がない」「値段が読めない」という声を多く聞きました。背景には、猛暑や災害、作付けの減少による供給の目詰まり、在庫と流通の偏り、そして長く続いた”安すぎた時代”からの正常化があります。これらが重なり、私たちの相場感が大きく揺れました。こうした中で痛感したのは、相場に振り回されず「根拠のある自分の線」を持つことの大切さです。価格は値上げのために決めるのではなく、来年も同じ田んぼに立つために決めます。では、そ具体的に線をどう描くかです。

まず、価格は「茶碗1杯」で伝えるのがいちばん分かりやすいと感じます。前提をそろえます。玄米1俵は60kg。白米5kgの店頭目安は、玄米1俵価格÷60×5×1.1(精米・袋・販促などを1割とする簡易式)です。ご飯は白米1kgで約16杯、白米5kgで約80杯が目安です。たとえば、農家の手取りを玄米1俵2万4,000円とすると、白米5kgは約2,200円、茶碗1杯は約28円になります。2万円なら約23円、3万円なら約34~35円です。有機の直販のように工程を農家がほぼ担う場合は、1俵4.8万~5.4万円が再生産ラインになりやすく、白米5kgで4,400~4,950円、茶碗1杯で55~62円と説明できます。大切なのは「高い / 安い」という印象ではなく、工程と手間を見える化することです。誰が精米し、誰が袋詰めし、誰が運び、誰が販売しているのか?工程をたどれば、上乗せの理由は自然に伝わります。
次に、慣行栽培の「基準帯」です。現場の声と実計算から、農家手取りで玄米1俵2~2.5万円が多くの地域で現実的です。これを白米5kgに直すと約1,800~2,500円になります。ただし、卸や小売の工程が入ると棚に並ぶ値段は厚くなり、消費者が目にするのは白米5kgで3,300~4,000円あたりが目安です。誤解なく伝えるには、「農家の手取りの値」と「店頭の見える値」は違うことを、数字と簡易式で共有します。直販はこの”差”を小さくしやすい反面、説明の時間や顧客対応の手間が増えます。どこに重心を置くのかを、事前に自分の戦略として決めておきます。
有機や直販は、別軸で考えるべきです。生産だけでなく、精米・袋・在庫・発送・決済・問い合わせまでを農家側が担うなら、再生産ラインは1俵4.8~5.4万円になりやすいです。白米5kgは4,400~5,000円台、茶碗1杯は55~62円が目安です。要は「顔の見える値段」をつくることです。工程と手当を可視化し、”納得の交換”を積み重ねれば、価格は理解され、関係は長続きします。実際、説明を丁寧に行う直販ほど、価格変動期に信頼が厚くなると感じます。
販売先の設計も、この1年で学びが多かった点です。買い占めを防ぐために購入上限や予約制、パスワード制を導入しても収まらず、最終的に通販を一時停止して常連を優先した農家もありました。私の方針は3つです。1.”かかりつけ化”―年間予約・定期便・ファンクラブで関係を先につくります。2.直販比率の引き上げ―たとえば5割から7割へ上げ、説明できる価格の比重を高め、市場の乱高下の影響を弱めます。3.価格は途中で変えにくい前提で初値設計に時間をかけます―年度途中の値上げは信頼を損ねます。「誰に、いくらで、どれだけ」を最初に決め、あとでぶれずに運用を続けます。
最後に、実務としての「価格の作り方」をまとめます。作付けと収量の見込みを置き、現金支出(種・肥料・燃料・修繕・包装・送料・販促)を積み上げ、自分の時給(例:2,000円)を作業時間で計上します。不作や返品、事故在庫のリスク係数を5~10%上乗せし、玄米1俵の手取り目標を決めます(慣行2.0~2.5万円、有機直販4.8~5.4万円など)。そこから販売チャネル別に展開します。直販は玄米→白米5kgへ換算(÷60×5×1.1)し、送料と決済費を加えます。産直や小売に出す場合は、手数料や歩留まりを織り込みます。最後に「茶碗1杯」に翻訳し、レジ横やWebに式と数字をそのまま掲示します。ここまで行うと、説明はぐっと楽になります。
“安い米が当たり前”という時代は、静かに終わりに向かっています。これからは「続けられる価格を、わかりやすく」です。慣行なら白米5kgで3,300~4,000円、有機直販なら4,400~5,000円台が一つの目安です。玄米の手取りで線を引き、白米5kgと茶碗1杯に翻訳して伝えます。売り先は”かかりつけ化”と直販比率の引き上げで揺れを抑えます。価格には根拠を、説明には誠実さを―来年の秋も、同じ田んぼで乾いた稲束を見上げるためにそうありたいと思います。





