数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション 

数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション 

地方移住や関係人口、二拠点居住といった言葉が日常的に語られるようになって久しい。兼業就農に取り組む立場から見ても、「移住」は避けて通れないテーマであり、気がつけば移住関連の書籍を手当たり次第に手に取ってきた。本書も、そうした流れの中で読んだ一冊であるが、率直に言えば、非常に冷静で、かつ現実的な視点を与えてくれる良書である。

本書の最大の特徴は、感情論や理想論に寄らず、「数字」と「ファクト」から地方移住を捉えている点にある。移住促進の現場では、「若者が地方に戻ってきている」「移住者が増えている」といった前向きな言説が語られがちだが、統計データを丹念に追っていくと、実際に”完全移住”に至る人の数は、想像以上に少ない。ここを曖昧にせず、はっきりと示している点は、移住施策や地域づくりに関わる人ほど、ぜひ目を通しておくべき部分だと感じた。

一方で、本書は「だから移住は失敗だ」と切り捨てるわけではない。むしろ、移住が成立するケースを丁寧に分析すると、そこには共通点があることが示される。それが、「関係性の蓄積」である。短期の体験ツアーや一度きりのイベントではなく、何度も地域を訪れ、人と顔見知りになり、仕事や活動を通じて関わりを深めていく。その延長線上に、結果として移住がある。移住はゴールではなく、関係性が熟成した先に自然発生的に起こる現象だ、という視点は非常に示唆的だ。

この点は、チバニアン兼業農学校の考え方とも強く重なる。当校は、移住そのものを目的としていない。生徒が今の生活基盤を維持しながら、農に関わり、収益を生み、満足度の高い人生設計ができているかどうかを重視している。その結果として、二拠点居住になる人もいれば、いずれ移住を選ぶ人もいるが、それはあくまで”結果”であって”前提”ではない。

本書を読んで改めて感じたのは、移住を数で追いかける時代は、そろそろ終わりつつあるのではないか、ということだ。重要なのは、移住者の人数ではなく、地域と関わる人がどれだけ増え、その関係がどれほど持続的かという視点である。兼業就農、関係人口、半農半Xといった実践の価値を、数字とファクトで裏付けてくれる本書は、現場で活動する人にとって、強力な羅針盤になるだろう。

本の概要

競争や流行に振り回されずフェアで持続可能な移住促進へ

  • 「移住者=I ターン」の落とし穴
  • 移住婚高齢者移住施策が炎上しやすい理由
  • 関係人口促進で移住者が増えるまちの条件
  • 移住ランキングの実態
  • 住民との摩擦を防ぎ乗り越える11の方法

人口減少社会にあって加熱する「地方移住」への注目。自治体間の競争による疲弊や格差拡大、移住者と住民のトラブル、移住機会の不平等、支援の効果の不透明さやミスマッチなど、行政による取り組みには課題が山積しています。競争や流行にとらわれず、まちに本当に必要な“移住者”と出会うには、一体どうすればよいのでしょうか。本書では「フェアで持続可能な移住促進はどうすれば可能か」という視点から、移住をめぐる研究結果や統計調査など様々な“ファクト”を豊富に紹介。33のトピックに分け、課題や葛藤を乗り越えるための考え方やアイディアを提示します。

目次


PART 1 移住促進の「当たり前」を問いなおす
 01-01 「いま、地方移住がブーム」ではなく、「ずっと、地方移住への関心は高い」
 01-02 具体的に移住を検討・計画している人は意外と少ない!?
 01-03 実は50年変わらない、移住希望割合と「仕事」というネック
 01-04 見落とされがちな”移住をやめる”背景
 01-05 コロナ禍か゛地方移住に与えた3つの影響
 01-06 そもそも国はなぜ移住を促進するのか
 01-07 他国の移住促進事情から学へ゛る「多様性」の視点
 01-08 移住へのキッカケとしてやっぱり重要な観光経験
 01-09 金銭的な移住支援の効果は一過性にすぎない
 01-10 「移住者=Iターン」という構図で失っている層

PART 2 キーワードからみる地方移住と移住促進の最前線
 02-01 移住起業:地域との関係性と相談できる体制づくりが鍵
 02-02 教育移住:オリジナリティある教育環境が移住者を惹きつける
 02-03 移住婚:問われるニーズと個人の選択への踏み込み
 02-04 タ゛ウンシフター:「稼ぎが減ってでも移住した人は多い」説のウラ・オモテ
 02-05 介護移住:高齢化社会ならではの地方移住の在り方
 02-06 関係人口:関係しない人口という新たな視点
 02-07 聖地移住:迎えられる側から迎える側になる
 02-08 ライフスタイル移住:経済的成功から生活の質を重視する移住へ
 02-09 ルーラル・シ゛ェントリフィケーション:移住者の増えすぎがもたらす問題
 02-10 転職なき移住:できる人・できない人の間にある格差
 02-11 移住マッチング:技術革新で登場した新たなプロモーション手法
 02-12 地方移住の商品化:移住の消費は何をもたらすか?

PART 3 公正で持続可能な移住促進に向けたアプローチ
 03-01 過度な自治体間競争から脱却しよう
 03-02 「役立つ、優れた移住者」という発想を脱き゛捨てる
 03-03 量と質の二項対立を乗り越えよう
 03-04 人口重視のKPIから、主観の変化を問うKPIへ
 03-05 移住ランキンク゛と適度な距離感て゛付き合う
 03-06 高まる広域連携の重要性:高知県の〝二段階移住〟政策から探るポイント
 03-07 移住をめぐる実態把握のための調査ノウハウ
 03-08 担当者の個人的経験を活かす
 03-09 移住者と地元住民のトラブルを防ぎ、乗り越える11のアイディア
 03-10 格差拡大を防ぐために必要な「正義」の視点
 03-11 「移住したい人を増やす」ではなく「移住した人の背中を押す」政策へ
 コラム もっと移住促進を考えたい人のための10冊

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