葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた。

葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた。

昨年度末に生徒から手渡された一冊の本が、まさかこんなにも面白いとは思いませんでした。タイトルを見たときは「葬儀会社と農業って、一体どんな接点があるのだろう?」と不思議に感じましたが、その疑問こそが本書を読むうえでの魅力でした。筆者の会社は千葉県にあり、「十全社」という名前は私もどこかで見かけたことがあったので、より身近に感じられたのも嬉しいところです。

本書が興味深いのは、葬儀という厳粛な場と、米作りをはじめとした農業というフィールドを組み合わせ、新しいビジネスモデルを生み出した点にあります。たとえば、葬儀の返礼品に自社で生産したお米を採用しているという試みは、単なるコスト削減や売り上げ向上とは違う、リスク分散や地域活性化を目指す姿勢が感じられました。農業はどうしても収穫量や天候に左右されやすい事業ですが、別の業種と連携することで、もし片方が難しい状況に陥っても他方で補い合えるという考え方はとても合理的です。

また、これからの農業は、ただ作物を作るだけではなく、いかに多様な人や企業を巻き込み、地域との相乗効果を生むかが大切になっていくと思います。そうした意味でも、葬儀会社の新規参入は大いに歓迎されるべきでしょう。実際に本書には、「農業に興味はあるけれど、ノウハウがなくて不安」という人に向けて、何をどう準備すればよいか、どこに相談すれば安心かといった具体的なヒントが散りばめられていて、専門知識がなくとも読み進めやすいつくりです。

本業で農業に携わる人と、兼業や新規参入で農業を始める人とでは、抱える課題やリスクの種類も違うかもしれません。しかし本書は、そうした違いを理解しつつ、実際に活躍している事例を紹介しながら「じゃあ自分はどう動けばいいのか?」を考えさせてくれます。まさに幅広い業種・職種の人たちにとっての、農業を入り口としたサステナブルな経営の参考書といえるでしょう。新しいチャレンジを考えている人にはぜひおすすめしたい一冊です。

本の概要

本の紹介

市場が縮小する業界で生き残る!

外注業務の内製化を突き進めてたどり着いた異業種参入

経営危機から8つの事業を展開、 資産総額27億円まで成長できた戦略とは――

日本の人口が減少するのに伴って、市場規模が縮小し厳しい状況に立たされている業界は多くあります。

著者が身をおく葬儀業界もその一つです。人口減少は死亡する人が減ることを意味し、葬儀の減少に直結します。

著者は祖母が始めた葬儀会社を1998年に引き継ぎましたが、死亡者数減少によるマーケットの縮小が目に見えているのに加え、葬儀の規模も縮小傾向にあり、葬儀単価は右肩下がりで事業の先行きに強い危機感を抱いていました。

しかし、その25年後の2023年現在、著者の会社は葬儀業を含めて8つの事業を展開し、資産総額は27億円、年間売上高は14.5億円、ROE(自己資本利益率)は10%、自己資本比率は40%を超えています。このなかで、葬儀業と並ぶ柱になっているのが農業です。

葬儀会社が農業をやっているというと多くの人はまったく関連のない異業種に参入したと思うかもしれませんが、そうではありません。

著者は業界が縮小するなかで売上を伸ばすのではなく、利益率を改善させる方向に舵を切りました。その際に取り組んだのが外注業務の内製化です。もちろん内製化には固定費もかかりますが、固定費が負担にならないよう本業とのコストシナジーを考え、他の事業でもリソースを活用できるようシミュレーションを繰り返しました。

そして内製化によって利益率の改善が実現できたことで、結果的に農業をはじめとする複数の異業種参入につながったのです。葬儀業界の外注業務は多岐にわたります。葬儀で使う生花の仕入れ、葬儀や法事の仕出しの製造などがありますが、著者はそれらを次々と内製化していきます。たとえば生花であれば蕾のうちは一般用に販売し、その後開花した花は葬儀用に使用することで無駄をとことん省いたのです。さらに葬儀の返礼品として使える商品開発にも乗り出し、着目したのが米でした。米であれば返礼品としてだけでなく、仕出しにも活用できます。そこで北海道に農業生産法人を設立し農業に参入しました。7haからスタートした田畑の面積は、今では52haにまで拡大し、葬儀業との両立で経営は安定しています。

こうした経験から、既存事業の外注業務に目をつけて取り込みながら新たな分野に参入すれば、中小企業にとっても大きなビジネスチャンスがあると著者は主張します。本書では著者がどのようにして異業種に参入して成功したのか、その視点や発想、取り組みを紹介します。経営者にとって新たなビジネスモデルを創出し、未来を切り拓くためのヒントがつまった一冊です。

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