たった8万円で手に入れた800㎡にオリーブを植えた話

先日、千葉市大木戸町にある農地800㎡に、約20本のオリーブを植え付けた。この農地、取得にかかった費用はわずか8万円だ。「首都圏の農地が8万円?何かの間違いでは?」と思う方も多いだろう。実はこれ、「公売」という制度を活用した結果であり、農地特有の事情が重なったことで実現した話である。今回はこの経緯を、農地取得のリアルとともにお伝えしたい。
目次
公売とは何か
公売とは、税金の滞納者が所有する財産を、国や地方自治体が強制的に差し押さえ、競売にかける手続きのことだ。不動産や動産、有価証券などが対象になり得る。
一般的に知られているのは、裁判所が主導する「競売」だが、公売は税務署や自治体の税務部門が主体となって行う点で異なる。手続きの流れはほぼ同じで、一定の入札期間に参加者が価格を提示し、最高額を入札した者が落札する仕組みだ。
不動産の公売は、インターネット公売(ヤフー公売など)を通じて行われることも多く、全国各地の物件に入札できるようになっている。不動産に関心のある方はご存知の方も多いかもしれない。
ただし、農地の場合は一般の不動産公売と大きく異なるルールが存在する。ここが農地を安く取得できる最大の理由になる。
なぜ農地はあれほど安いのか
農地が安くなる理由は、大きく3つある。
農業者しか引き受けられない
農地法という法律により、農地は原則として農業目的にしか使用できない。住宅を建てることも、駐車場にすることも、農業以外の用途に転用することは、原則として認められていない(農業委員会の許可を得た上での転用は別論)。
つまり、農地を買えるのは農業者か、農業を行う意思がある者に限られるのだ。一般の不動産市場のように、誰でも自由に購入できるわけではない。買い手が限定されれば、需要は当然小さくなり、価格も下がる。
農業で得られる収益が低い
農地の価格は、その土地から得られる収益をもとに算定される側面がある。農産物の収益は、都市部の商業地や住宅地と比べると著しく低い。いくら都市近郊であっても、農作物の販売で得られる収入は限られているため、農地の経済的な評価は低くなりやすい。
首都圏だから高い、という発想は農地には通用しないのだ。
現在は熊本・鹿児島の農地の方が千葉より安い場合もある
少し意外に思われるかもしれないが、現在の農地市場では、熊本県や鹿児島県の農地が、千葉県の農地よりも安くなっているケースが珍しくない。
これは需要と供給の問題だ。九州の農業地帯では農家の高齢化・離農が進み、農地の供給が急増している一方、担い手となる農業者の数は追いついていない。千葉県の農地も決して高くはないが、首都圏という立地から一定の需要があるため、九州の一部エリアと比べると割高になることがある。
農地の価格は「地方だから安い、都市部だから高い」という単純な論理では動かない。需要と供給、農業の採算性、担い手の数によって決まる独自の市場が存在するのだ。
公売には「買受適格証明書」が必要
農地の公売に参加するためには、通常の入札参加資格に加えて、農業委員会が発行する「買受適格証明書」が必要になる。これは、入札者が農業を行う資格・能力を有することを証明する書類だ。
この書類を取得するには、農業委員会への申請と審査が必要で、一定の農業経験や農地の利用計画の提出が求められる。一般の方がすぐに入手できるものではないため、実質的に一般市民の参入障壁となっている。
逆に言えば、農業者・農業参入者にとっては、競合が少ない分、有利な条件で農地を取得できるチャンスがあるということでもある。
8万円で落札した農地
今回、私が公売で取得した千葉市大木戸町の農地は800㎡。テニスコートの約3分の1強という広さだ。千葉市という政令指定都市の市域内にある農地が、8万円で手に入った。
この背景には上述した農地特有の事情がすべて重なっている。農業にしか使えず、買い手が限定され、収益性が低く、公売という性格上さらに競合が少ない。これらの条件が揃ったとき、都市近郊の農地でも驚くほど低価格での取得が可能になる。
もちろん、取得後には農地として適切に利用する義務がある。遊ばせておくことは許されないし、農業委員会の管理下に置かれることも理解しておく必要がある。
オリーブを植えた理由
農地を取得したからには、すぐに動く。
昨日、この800㎡の農地に約20本のオリーブの植え付けを行った。
なぜオリーブなのか。当校ではこれまでも「オリーブベース」という共同農場の取り組みを進めてきた。市原市、野田市、春日部市、横浜市、袖ヶ浦市と、首都圏各地に修了生が管理するオリーブ農場が増えてきている。今回の大木戸町の農地は、その新たな拠点となる予定だ。
オリーブを選ぶ理由はいくつかある。
まず、比較的手間が少なく、一度根付けば長期的に安定した収量を見込めること。本業を抱える兼業農家にとって、管理の手軽さは非常に重要だ。次に、収穫物としてのオリーブオイルや塩漬けオリーブは付加価値が高く、農業収益として見通しが立てやすい。そして、景観としての美しさもある。オリーブの木が並ぶ農地は、観光農園や体験型農業との親和性も高い。
農業と観光の融合は、地域創生の観点からも注目されているテーマだ。インバウンド旅行客を含め、農業体験への需要は着実に増えている。オリーブ農場は、その受け皿として機能する可能性を秘めている。
農地取得は「農業者の特権」である
今回の経験を通じて改めて感じるのは、農業者・農業参入者には、一般の不動産市場では到底手に入らない資産を、驚くほど低コストで取得できる可能性があるということだ。
8万円で800㎡の農地を手にし、そこにオリーブを植える。都市に住み、本業を続けながら農業を営む兼業農家だからこそ実現できる、リアルな農業参入の形だと思っている。
農地の取得に関心のある方、オリーブベースへの参加に興味がある方は、ぜひチバニアン兼業農学校へお問い合わせいただきたい。一人で悩まず、仲間と一緒に一歩を踏み出してほしい。





