気温・海面水温が過去最高「最も異常な暑い年」24年

はじめに


日本農業新聞2024年12月26日

気象庁の発表によると、2024年の日本と世界の平均気温、そして日本近海の海面水温が、観測史上かつてないほど高い値を示したそうです。特に日本の平均気温は平年より1.64度も高く、1898年に統計を取り始めて以来の大幅な記録更新となりました。体感的にも「今年はとにかく暑かった」という実感を持つ人は多いのではないでしょうか。猛暑日が続くばかりでなく、台風シーズンの異常気象や大雨なども相次ぎ、日本中で極端な気候変動を肌で感じる場面が増えてきたように思います。

さらに世界全体でも平均気温が0.62度上昇したとの報告があり、2015年以降は高温記録の上位を更新し続ける傾向が顕著です。海面水温については前年より0.36度高いプラス1.46度という突出した数値が出ており、こうした「海洋熱波」が台風の勢力維持を助長したり、沿岸部や内陸部にも熱の影響をもたらしたりする要因になり得ると指摘されています。実際、日本近海は世界の海域と比べてもとりわけ高温化が進んでおり、今後の台風の進路や雨量、さらには海洋資源や漁業への影響を懸念する声が一層高まっています。

地球温暖化が進む背景

こうした地球温暖化の傾向は、決して2023年や2024年だけの話ではなく、ここ数十年にわたって徐々に進んでいたものであるとも言われています。一時期は新型コロナウイルスの世界的大流行によって人々の注目が健康や経済へと大きくシフトし、温暖化関連のニュースや報道が減った印象がありました。しかし、コロナ禍の最中にも地球温暖化は確実に進んでいたというのが実情です。

一時的には経済活動の停止や海外旅行の自粛などによって、大気汚染物質や温室効果ガスの排出量がわずかに落ち着いたと分析された時期もありました。ところが、社会活動が徐々に通常モードへと戻ってくるにつれ、世界の二酸化炭素排出量は再び増加傾向を示しています。とりわけ、世界トップレベルの排出大国であるアメリカの動向は注目されます。過去にトランプ大統領が就任した際、「地球温暖化はでっち上げだ」とする発言や、パリ協定からの離脱を表明したことは記憶に新しいでしょう。これはアメリカという大国が政権次第で温暖化対策の姿勢を大きく変えるという現実を突きつけました。今後も各国が地球温暖化対策に足並みをそろえられないようであれば、気候変動のペースは加速し、その影響はさらに深刻化しかねません。

異常気象がもたらす食料危機のリスク

日本国内でも、近年の異常気象が農作物の生産に大きな影響を及ぼしているのは間違いありません。例えば、1993年には冷夏の影響で記録的な米不足が起こり、タイ米などの緊急輸入に踏み切らざるを得ない状況に陥りました。そして、その約30年後となる2023年・2024年にかけても米不足が再び懸念されるようになり、気候変動が一因ではないかと指摘されています。今後は、30年に1回という周期よりもさらに短いスパンで、同じような事態が起こるかもしれません。

また、海外を含めて考えれば、人口増加や食料需要の拡大、資源の偏在化などさまざまな問題が重なり合っています。干ばつや豪雨、台風の巨大化などによって農産物の生産量が落ち込めば、世界規模で食料危機に陥る可能性も高まります。さらに日本では農業従事者の高齢化や後継者不足、燃料コストの高騰など、国内独自の課題も少なくありません。こうした多方面からのリスクが重なり合うことで、私たちの食卓を支える農業・食料システムはかつてないほど不安定化していると言わざるを得ないでしょう。

兼業就農による自給自足体制の重要性

こうした状況の中、自給率を高めようとする取り組みへの関心は高まっています。兼業就農という形であっても、米や野菜をある程度自分で作っていれば、輸入品の価格が高騰したり入手が困難になったりしても、生活を守る上で強みになります。大掛かりな農業とはいかなくても、家庭菜園レベルで野菜を育てるだけでも、いざというときの備えとして安心感が得られるでしょう。

しかし、地球温暖化によって10年スパンでの気候や環境が大きく変化すると、従来の主力作物が育てにくくなる可能性は否めません。代わりに南国の作物が栽培しやすくなるなど、新しい作物が台頭する場面もあるかもしれません。その変化を柔軟に受け止め、栽培方法を工夫し、地域でノウハウを共有しながら生き残っていくためには、農業に関する知識・技術、そして人の確保がとても重要になります。大規模な政策や国際協調も必要ですが、それと同時に、各地域や個人が地道に取り組みを積み重ねていくことが、食の安全保障に直結していくのです。

防災と気象情報の重要性

台風や豪雨など極端な気象現象への備えも欠かせません。気象庁は「2~3日先の予報精度は高まっているものの、5日先の進路予報には大きな誤差がある」と総括しました。これは台風や大雨が、かつての常識では予想できないほど変化しやすくなっている現状を示しているとも言えます。一度上陸すれば記録的な大雨をもたらしたり、予報円を大きく逸れてしまったりするケースが増えています。海水温が高いと台風のエネルギー源である海面からの熱供給が十分に行われ、勢力が衰えにくいまま日本に近づく危険性が高まります。

こうした自然災害の増加を見据えて、個人レベルでも住まいの耐久性や防災グッズの準備、避難ルートの確認などを欠かさないようにすることが大切です。自治体や地域コミュニティと連携して、水害や土砂災害に備えたハザードマップを確認する、非常時の連絡体制を見直すなど、防災意識を高める取り組みも必要でしょう。気候変動が進めば進むほど、予想外の災害が起こりやすくなるわけですから、油断は禁物です。

温暖化時代における農業の変化と対策

2024年が観測史上“最も異常に暑い年”になりましたが、今後、さらに記録が塗り替えられることは容易に想像されます。日本の農家の中には、高温に強い新品種を導入したり、ハウス栽培で冷房設備を整えたりといった対策を講じる動きが出始めています。技術の進歩によって一定の対処は可能ですが、燃料コストの上昇や設備投資による負担増など新たな課題も出てきます。それでも、兼業就農や家庭菜園のように小規模な取り組みであっても、地域ごとに多様な作物を育てていけば、食料の安定供給に寄与できる可能性があります。

また、10年、20年先を見据えると、植物の分布域や生育環境が大きく変わるかもしれません。たとえば、これまで東南アジアで栽培されていた作物が日本の気候に適応しやすくなったり、逆に日本で伝統的に育てられていた品種が生育しづらくなったりするシナリオも考えられます。そうした変化に合わせて柔軟に作目を変えたり、土壌改良や灌漑システムの見直しを行ったりするなど、農家や自治体はこれまでとは異なる視点でのアプローチを求められていくでしょう。

これからの展望と行動

私自身も兼業農家として、農作物の栽培に関わりながらこのようなニュースを聞くたびに、「危機感」と同時に「行動しよう」という思いを強くしています。農業以外の仕事をしていても、私たちの暮らしや食卓は必ず農業・食料問題と結びついています。短期的には猛暑や長雨、台風による被害が続くリスクがありますが、長期的には作物の栽培サイクルや収穫時期、あるいは産地そのものが変化せざるを得なくなるかもしれません。

こうした気候変動のリスクを真正面から受けとめるには、まず現状を正しく知ることが重要です。日々の生活の中で節電や省エネを心がける、地元の農家や産直施設を応援して地産地消に協力する、あるいは災害時の備蓄や避難計画をしっかり立てておくなど、小さな取り組みでも無駄にはなりません。地域で農業のノウハウや人的ネットワークを築いておくことが、いざというとき助け合いや情報共有をスムーズにするのです。

2024年の気温上昇という事実は非常に深刻です。しかし、これを「もう取り返しがつかない」と諦めるのではなく、この現実を受け止めたうえで次の世代により良い環境と農業基盤をバトンタッチできるよう、1人1人が行動を起こすことが求められています。兼業就農であっても、家庭菜園であっても、食料危機に対する備えはゼロより確実にプラスになるはずです。農業が高齢化や担い手不足など厳しい状況にあるからこそ、新たに農業に関わる人材が増えれば活気も生まれますし、「自分たちの地域で自分たちの食を守る」という意識も高まるでしょう。

まとめ

2024年は観測史上「最も異常に暑い年」と評され、日本・世界の平均気温や日本近海の海面水温が大幅に上昇しました。一時期はコロナ禍で環境問題への報道が減った印象があったものの、温暖化は依然として深刻に進んでいます。アメリカの政権動向など、国際社会全体で温暖化対策の足並みがそろわない限り、気候変動の加速は避けられないでしょう。日本国内では米不足や異常気象による農作物への被害が顕在化し、今後さらに頻発する恐れがあります。

こうした背景のなかでも、兼業就農や家庭菜園による自給自足体制をつくっておけば、ある程度は危機を乗り越えられる可能性があります。しかし、気候変動が進むと作物に適した環境が大きく変わっていくため、10年単位で農業のあり方や生産体制を柔軟に見直すことが必要です。気象庁の台風予測精度向上や国際協力による温室効果ガスの削減など、大きな視点の取り組みも大切ですが、個人や地域での小さな努力も軽視できません。

今後は、さらなる異常気象や自然災害、食料危機のリスクが高まることが予想されます。しかし、私たち自身が地道に行動し、地域の農業を支えながら、次世代にも持続可能な環境と食の基盤を手渡していくことは不可能ではありません。今回の「観測史上、最も暑い年」の記録が、私たち一人一人の意識と行動を変える大きなきっかけになることを強く願っています。

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