定年後の不安をなくす、「小さな仕事」としての兼業農業

目次
定年後のお金、なんとなく不安になっていませんか

定年が近づいてくると、心のどこかに小さなモヤモヤや不安が生まれてきます。「年金だけで、この先やっていけるのだろうか」「趣味や旅行にお金を使ったら、あっという間に貯金が減ってしまうのでは」そんな不安を、誰にも言えずに一人で抱えている方は、意外と多いのではないでしょうか。
チバニアン兼業農学校の説明会にいらっしゃる方も、表向きの動機は「野菜を育ててみたい」という方が多いのですが、お話をうかがうと、その奥に「会社員生活が終わったあと、自分はどうなるのだろう」という気持ちが隠れていることがよくあります。お金の不安と、居場所の不安。この2つは、たいてい一緒にやってくるように感じます。
農業に興味がある人は多いものです。でも、最初の一歩を一人で踏み出せる人は、ほとんどいません。それは意志が弱いからではなく、踏み出し方を教えてくれる人が近くにいないから、というのが私たちの実感です。
「小さく稼ぐ」だけで、家計は赤字から黒字に変わる

実は、老後のお金の不安は、大きく稼ごうとするからこそ膨らんでしまうのかもしれません。
総務省の「家計調査」(2025年)によると、65歳以上・無職の夫婦のみの世帯では、年金などを含めた実収入が月平均25万4千円(このうち社会保障給付が22万8千円)であるのに対し、実支出は月平均29万6千円(消費支出26万4千円、税や社会保険料などの非消費支出3万3千円)。差し引きすると、毎月4万2千円ほどの赤字になっている、というデータがあります。
一方で、リクルートワークス研究所の坂本貴志さんは、雑誌「PRESIDENT」2026年6月12日号の中で、月10万円ほどの「小さな仕事」による収入があれば、この赤字は解消され、6万円近い黒字に変わる、と指摘しています。住宅ローンを払い終え、子どもも独立していれば、シニアの支出は現役時代よりずっと軽くなる。だからこそ、無理をして大きく稼ぐ必要はない、というお話です。
説明会でいちばん多い質問が「農業でいくら稼げますか」です。多くの方が、生活費のすべてを農業でまかなう姿を想像して、その大きさに怯んでしまいます。でも、必要なのが月10万円なのだとしたら、話はまったく変わってきます。お風呂の水にたとえるなら、栓が抜けたまま蛇口を全開にする必要はない、ということかもしれません。栓を閉めて(支出を下げて)、蛇口を少しひねる(小さく稼ぐ)。それだけで、湯船の水は減らなくなります。
なぜ「小さな仕事」の選択肢に、農業が入ってこないのか

理由1 定年後の仕事を、会社勤めの延長でしか考えられない
再雇用やアルバイト、パートといった働き方は思いつきやすいものです。でも「畑を耕して野菜を育てる」という選択肢は、なかなか頭に浮かんでこないのではないでしょうか。農業は遠い世界の仕事だと感じている方が、実はとても多いのです。
ここについて、私たちには少し違う見方があります。定年後の仕事の良し悪しは、金額だけでは決まりません。誰と働くか、どこで働くか、自分の裁量がどれくらいあるか。この3つが、続くかどうかを大きく左右します。その意味で、自分の畑で自分の判断で動ける農業は、シニアの「小さな仕事」としてかなり相性が良い、と私たちは考えています。
理由2 農業を「仕事をやめてから、本格的に始めるもの」だと考えてしまう
多くの方が、農業を始めるなら会社をやめて専業でやるものだ、と思い込んでいます。ですが専業で農業を始めるとなると、機械代や資材費、天候によって収入が左右されるリスクなど、いきなり背負うには重すぎる荷物があります。仕事をやめないからこそ、農業に挑戦できる人がいるのです。
チバニアン兼業農学校が「兼業」という言葉を学校の名前に入れているのは、まさにここに理由があります。給与という土台があるうちに農業を始めれば、天候で失敗しても、収穫が思ったより少なくても、生活そのものは揺らぎません。この「失敗できる余裕」こそが、農業を続けるうえでいちばんの資産だと、私たちは考えています。
理由3 一人で始めようとして、動けなくなってしまう
農地を借りるための農業委員会への申請、地域との関係づくり、草刈りや土づくりといった地味な作業。どれも一人で調べて一人でやろうとすると、最初の一歩がとても重く感じられます。農業で折れるのは、体力よりも孤独です。
実際、夏の草刈りは想像以上にこたえます。刈っても刈っても、2週間後にはまた元どおり。一人でこれをやっていると「何のためにやっているのだろう」という気持ちが顔を出します。ところが同じ作業でも、隣の区画で誰かが同じように汗をかいていると、不思議と続けられるものです。私たちが仲間づくりを大事にしているのは、こうした現実的な理由からです。
「動くなら50代前半」小さな仕事は、早めの準備から

先ほどのPRESIDENT誌の同じ特集では、転職やセカンドキャリアについて「残る」ほうがリスクは低いものの、動くと決めるなら50代前半が望ましい、とも書かれています。60代になってから新しいことを始めようとすると、体力的にも気力的にも、一歩を踏み出すハードルが上がってしまうからです。
兼業での農業も、まったく同じです。定年してから畑を探し始めるのではなく、会社員を続けながら、50代のうちに少しずつ農業と付き合いはじめておく。そうすることで、定年後にはすでに「自分の畑」と「自分のペース」ができあがっている、という状態を作ることができます。
ここで一つ、あまり語られない現実をお伝えしておきます。農地は、お金があればすぐ借りられるものではありません。農地法という決まりがあり、農業委員会の判断があり、その手前には貸してくださる方との信頼関係があります。「この人になら任せてもいい」と思っていただくまでに、季節をいくつか越えることも珍しくありません。半年、一年とかかった受講生もいます。この時間は、定年してから慌てて用意できるものではないのです。
だからこそ私たちは、農地探しの前に、まず現場に立つことをおすすめしています。畑での野菜づくりだけでなく、農地を借りるための農業委員会とのやりとり、竹林整備や里山整備といった周辺の作業、そして何より、同じ思いを持つ仲間や、すでに一歩先を歩いている修了生とのつながり。農業を学ぶとは、作物の育て方だけでなく、土地との付き合い方を学ぶことでもあるのです。
今日からできる、4つの小さな一歩

- 自分が農業に使える時間を、正直に書き出してみる(毎週土曜だけ、月2回だけでも構いません)
- やりたい農業のイメージを分解してみる(野菜づくりなのか、果樹なのか、里山整備なのか)
- 農地を探す前に、まず現場を見に行く(説明会や体験講義、圃場見学がおすすめです)
- 「専業でやるかどうか」ではなく「続けられる形かどうか」で考える
とくに1番目を、私たちはいちばん大事にしています。理想を書き出すのではなく、いまの生活のなかで本当に空けられる時間を、正直に書き出してみてください。月2回でも構いません。むしろ「毎週通えます」と意気込んで始めた方より、「月2回が限界です」と最初に線を引いた方のほうが、数年後も続いていることが多いのです。
農業は、覚悟だけで始めるものではありません。準備して始めるものです。
よくある質問

Q. 会社員を続けながら、本当に農業はできますか?
A. 週末や休日を中心に、無理のない範囲で作業を進めている修了生がほとんどです。最初から広い畑を耕す必要はなく、小さな面積から始めて少しずつ広げていく形が現実的です。平日は会社、土曜は畑、というリズムを作っている方もいらっしゃいます。
Q. 定年後まで待たずに始めるメリットは何ですか?
A. PRESIDENT誌の記事でも、セカンドキャリアは50代前半のうちに動き出すほうがリスクが低い、と指摘されています。体力があるうちに農地や地域との関係を作っておくことで、定年後は「小さな仕事」としての農業をすぐに始められます。農地探しには時間がかかるため、この助走期間があるかどうかで、定年後のスタートは大きく変わります。
Q. 農業の経験がまったくないのですが大丈夫ですか?
A. 受講生の多くが未経験からのスタートです。草刈りや土づくりなど、基本的な作業から一つずつ学んでいきますので、経験がないことを心配しすぎる必要はありません。
Q. 農地はどうやって探せばいいのですか?
A. 農地を借りるには、農業委員会への申請など、いくつかの手続きが必要です。ただ、手続きより前に大切なのが、地域の方との関係づくりです。学校では、農地探しの進め方や地域とのつながり方についても、実例を交えてお伝えしています。
Q. どのくらいの収入を目指せますか?
A. 「誰でも簡単に高収入を得られる」というものではありませんが、PRESIDENT誌が紹介するように、月10万円程度の「小さな仕事」をはやめに準備して、農業で作りましょう。
Q. 体力に自信がないのですが、続けられるでしょうか?
A. 農作業は決して楽ではありませんが、一日中働き続ける必要はありません。夏場は朝の涼しい時間に2時間だけ動いて切り上げる、という進め方をされる方も多くいらっしゃいます。ご自身のペースを早めに見つけることが、長く続けるいちばんの近道です。
まとめ

老後の家計は、月10万円ほどの「小さな仕事」があるだけで、赤字から黒字へと大きく変わります。会社員を続けながら少しずつ農業と付き合っておけば、定年後にあわてることもありません。
そして私たちがもう一つ申し上げたいのは、農業がもたらすのはお金だけではない、ということです。畑に行けば、待っている作物があり、声をかけてくれる人がいます。定年後にいちばん効いてくるのは、この「行く場所がある」という感覚なのかもしれません。農業を人生の逃げ道にするのではなく、人生を広げる選択肢にしてほしいのです。
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