農業スクール比較(社会人・兼業就農志向者向け)

社会人が農業を学ぶときの選択肢を比べる

農業を学べる場所は、実は一つではありません。経営やマーケティングに重点を置くスクール、家庭菜園から入る体験型のスクール、専業農家を育てる公立の農業大学校など、入り口はいくつもあります。同じ「農業を学ぶ」という言葉でも、行き先のちがう電車に乗るようなもので、目的によって向き不向きがはっきり分かれます。

とくに社会人の方にとって、いちばん大きな分かれ道は「いまの仕事をやめるかどうか」かもしれません。全日制の学校は平日の昼間に通うことが前提なので、勤めを続けたまま学ぶのはむずかしくなります。反対に、土日の実習や夜のオンライン講義を中心に組まれたカリキュラムであれば、収入の柱を残したまま、少しずつ農業に足を踏み入れることができます。

下の表は、社会人が兼業で農業を始めることを前提に、代表的なタイプを整理したものです。細かいところは後の章で補足しますので、まずは全体をながめて、ご自分がどの列にいちばん近いかを探してみてください。

なお、比較対象は特定の学校名ではなく、一般的なタイプごとの傾向をまとめたものです。費用や回数は各校の公表内容や当校が把握している範囲の目安であり、実際の条件は各校に直接ご確認ください。総合評価は、兼業就農を目指す方から見た当校の主観的な評価です。

項目 チバニアン兼業農学校 農業ビジネス系スクール 都市近郊の自然農体験スクール 公立農業学校
主な対象 社会人・副業志向・定年後層 農業起業志向・転職希望者 初心者・家庭菜園志向 若年層・専業農家志望
学習スタイル 月2~3回の実習+オンライン講義 月1~2回の講義+実践 月2~3回の通学(体験型) 平日通学制(全日制)
期間・回数 3か月・現地15回、ZOOM25回 約1年・年間15回前後 約1年・年間20回前後 約2年・年間200日以上
費用目安 約25~30万円台 約70~90万円台 約10万円台 授業料 年額118,800円(千葉県立の例)+寮費・実費
遠隔授業(オンライン対応) ◎ オンライン講義あり(ハイブリッド形式) ○ 一部オンライン対応あり × 対面中心・遠隔対応なし × 対面授業のみ
学べる内容 太陽光型栽培・オリーブ・ブルーベリー・販売実習・里山管理 経営・販売・マーケティング 有機栽培・自然農・家庭菜園 稲作・園芸・畜産など基礎全般
兼業・副業との両立 ◎ 可能(社会人設計) ◎ 可能(週末中心) ◎ 可能(週末中心) × 不可(全日制)
就農支援 農地紹介・地域連携・法人参画あり 農地マッチングあり 体験中心で支援なし 県・JAとの連携あり
地域との関わり 地元農家・企業・自治体と連携 民間農業法人との提携 市民農園・地域交流中心 行政・農協との連携
特徴 現実的な兼業モデル・地域資源を活かした収益型実践 経営や販売に強いビジネス志向 無理なく始められる自然体験型 専業農家育成の正規教育
社会人にとっての通いやすさ ◎ 非常に通いやすい ○ 通いやすい ○ 通いやすい × 難しい
総合評価 ★★★★★(兼業・実践・地域連携に強い) ★★★★☆(経営志向) ★★☆☆☆(体験中心) ★★★☆☆(基礎力重視)

表の4つのタイプを、もう少しくわしく

表だけでは伝わりにくいところを、タイプごとに補足します。どれが優れているという話ではなく、それぞれ得意な役割がちがう、と考えていただくのがよさそうです。

1. 兼業就農に特化したスクール(当校のタイプ)

勤めを続けたまま農業を始めることを前提に、実習の日程を土日や祝日に寄せてあるタイプです。現地での作業とオンライン講義を組み合わせるので、少し離れた場所にお住まいの方でも学びやすいという特徴があります。当校の場合は現地実習が15回、Zoom講義が25回という組み立てで、費用の目安は25万円から30万円台です。3か月の修了後も継続的に講義に参加することも可能です。

向いているのは、いまの収入を残したまま、少しずつ農業の比重を増やしていきたい方です。反対に、はじめから大規模な専業経営を目指す方には、実習の日数がもの足りなく感じられるかもしれません。

2. 農業ビジネス系スクール

栽培そのものよりも、経営や販売、ブランドづくりに重心を置くタイプです。費用は70万円から90万円台と高めですが、値づけや販路の設計といった、農家がいちばんつまずきやすいところを筋道立てて学べます。作るものがすでに決まっていて、売り方を強くしたい方に向いています。

3. 都市近郊の自然農体験スクール

市民農園や体験農園に近い雰囲気で、有機栽培や自然農をゆっくり学ぶタイプです。10万円台から始められることが多く、いちばん敷居の低い入り口だと思います。ただし就農までの支援はついていないことが多いので、「まずは土に触れてみたい」という段階の方に向いています。

4. 公立の農業大学校

都道府県が運営する2年制の学校で、稲作や園芸、畜産といった基礎を幅広く学べます。ここでよく誤解されるのが学費です。「公立だから無料」と思われがちですが、実際には授業料がかかります。たとえば千葉県立農業大学校では、入学料が5,650円、授業料が年額118,800円と公表されています。寮費や食費、教材費まで含めた年間の総経費は、農学科1年生でおよそ80万円という目安が示されています。

授業は平日の全日制ですので、勤めながら通うことはできません。会社をやめて本格的に専業を目指す方や、若い世代の方に向いた選択肢といえます。

費用は「学費」だけで見ないほうが安心です

学校を比べるとき、どうしても受講料の数字だけに目が行きます。ただ、実際に動きはじめると、学費以外のお金がじわじわとかかってきます。旅行の予算を宿泊代だけで見積もると足りなくなるのに、少し似ているかもしれません。

学費のほかにかかるもの

通うための交通費、長靴や鍬などの道具代、種や苗、肥料の実費、そして農地を借りるための賃借料。こうしたものを合わせて、1年間で数万円から十数万円ほどを別に見ておくと安心です。機械が必要になる段階では、中古の管理機でも10万円前後からという世界になりますので、いきなり全部そろえようとせず、借りられるものは借りるところから始めるのが現実的だと思います。

使える公的な支援もあります

研修中の生活費を支える国の制度に「就農準備資金」があります。農林水産省の資料によると、交付額は月13.75万円(年間で最大165万円)、交付期間は最長2年間、対象は原則として49歳以下の方です。就農したあとの経営が落ち着くまでを支える「経営開始資金」もあり、こちらは同じく月13.75万円で最長3年間とされています。

ただし、どちらも都道府県が認めた研修機関で学ぶことなど、細かな要件があります。年齢や研修先によっては対象にならないこともありますので、お住まいの市町村や県の就農相談窓口で、早めに確認しておくと安心です。「あとで申請すればいい」と思っていたら、研修が始まったあとでは間に合わなかった、という声もときどき耳にします。

数字で見る、いまの新規就農

気持ちの話だけでなく、いちど数字も見ておきましょう。農林水産省の「令和6年新規就農者調査」によると、2024年の新規就農者は43,500人で、前年とほぼ同じでした。このうち49歳以下は15,720人、前の年から1.1パーセントの減少です。

内訳を見ると、実家の農業を継ぐ「新規自営農業就農者」が29,580人、農業法人などに就職する「新規雇用就農者」が10,180人、まったく外から入る「新規参入者」が3,750人となっています。このなかで雇用就農だけが前年より9.5パーセント増えているのが、少し目を引きます。

ここで気に留めておきたいのが、新規参入者3,750人という数字の小ささです。全体の1割にも届きません。裏を返すと、実家に農地がない社会人にとっては、農地や機械、販路をどう手に入れるかが、いちばんの関門になっているということかもしれません。ですから学校を選ぶときも、その関門を一緒に越えてくれるかどうかが、大きな分かれ目になります。

修了後に「農地」までたどり着けるかどうか

カリキュラムの中身と同じくらい、いえ、それ以上に大事なのが「学び終えたあとに農地取得までたどり着けるか」です。ここが用意されていないと、知識だけが手元に残って、行き場がなくなってしまいます。

農地を借りるハードルは、じつは下がりました

あまり知られていませんが、2023年4月1日から、農地を取得するときの「下限面積要件」がなくなりました。以前は原則50アール(北海道は2ヘクタール)以上をまとめて耕せないと許可が下りませんでしたが、農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律(令和4年法律第56号)によって、この面積の下限が撤廃されています。小さな面積から少しずつ始めたい兼業志向の方にとっては、追い風といえます。

それでも残っている3つの条件

とはいえ、面積の条件がなくなっただけで、許可そのものが要らなくなったわけではありません。農地法第3条では、いまも次のような点が審査されます。

  • 全部効率利用: 取得する農地も含めて、持っている農地をすべてきちんと耕せること
  • 農作業への常時従事: 必要な農作業に常に従事すること(原則として年間150日以上が目安とされています)
  • 地域との調和: 周辺の農地の利用に支障を出さないこと

兼業の方がとくに気になるのは、2つめの「常時従事」ではないでしょうか。平日に会社があるなかで、年間150日をどう積み上げるか。ここは家族の協力の得方や、休日の使い方、育てる作物の選び方でずいぶん変わってきます。地域の農業委員会がどのように運用しているかによる部分も大きいので、学校を選ぶときには「農業委員会とのやりとりまで一緒に伴走してくれるか」を聞いておくと安心です。

当校が首都圏で活動しているのも、この部分と関係しています。地元の農家さんや自治体とふだんからつながりがあると、貸してもよいという農地の話が入ってきやすくなります。制度の説明だけで終わらず、実際の畑まで案内できるかどうか。そこは遠慮なく確かめてみてください。

兼業で続けるための、時間のつくり方

「月に2回か3回の実習で、本当に身につくのでしょうか」。これは説明会でもよくいただく質問です。回数だけを見ると、たしかに少なく感じられると思います。

1年を通して同じ畑を見ることに意味があります

作物は1年で一周します。春に植えて、夏に育て、秋に収穫して、冬に土を休ませる。この一周をご自分の目で追いかけると、教科書の言葉が少しずつ体の感覚に変わっていきます。回数の多さよりも、季節をひとまわり体験できるかどうかを見てみてください。

オンラインは「予習と復習」に効きます

畑に立てる日はかぎられています。だからこそ、移動時間や夜の1時間に受けられるオンライン講義が効いてきます。次に何をするのかを頭に入れてから畑へ行くと、同じ半日でも吸収できる量が変わります。ハイブリッド型を選ぶときは、講義の録画をあとから見返せるかどうかも確認しておくとよさそうです。

学校選びのチェックリスト

  • 実習日が土日や祝日に寄せてあるか
  • 1年を通して季節をひとまわり体験できるか
  • 修了後に農地を紹介する仕組みがあるか
  • 農業委員会への申請を一緒に進めてくれるか
  • 販売や値づけまで扱っているか
  • 学費以外にかかる実費の説明があるか
  • 卒業生が実際にどれくらい就農しているか

最後の項目は、意外と見落とされがちです。参考までに、当校では入学された方が507名、そのうち実際に就農された方が302名という実績になっています(当校調べ)。数字の大小そのものよりも、その学校が「就農した人数」まで公表しているかどうかが、姿勢のあらわれかもしれません。

よくある質問

農業の経験がまったくなくても大丈夫でしょうか

兼業就農を前提としたスクールに来られる方は、そもそも経験のない方がほとんどです。会社にお勤めの方、定年を迎えた方、子育てが一段落した方など、入り口はさまざまです。むしろ、鍬の持ち方から一緒に始めるつもりで組まれているカリキュラムかどうかを見ていただくとよいと思います。

会社をやめないと農業はできませんか

そんなことはありません。ただ、学ぶ場所によってはやめることが前提になっています。公立の農業大学校は平日の全日制ですので、勤めながらの通学はむずかしくなります。兼業のまま続けたい場合は、実習が土日に組まれているか、オンラインで補えるかを必ず確認してください。

公立の農業大学校は学費が無料だと聞きましたが

授業料はかかります。たとえば千葉県立農業大学校では、入学料5,650円、授業料が年額118,800円と公表されています。寮費や食費、教材費を含めた年間の総経費は、農学科1年生でおよそ80万円という目安が示されています。私立のスクールと比べれば負担は軽いのですが、「無料」ではない点はおさえておきたいところです。

農地はどのくらいの広さから始められますか

2023年4月1日に下限面積の要件がなくなりましたので、制度のうえでは小さな面積からでも取得できるようになりました。ただし、農地をすべてきちんと耕せること、農作業に常時従事すること(原則として年間150日以上が目安)、地域の農地利用に支障を出さないことといった条件は残っています。実際にどの程度で認められるかは地域の農業委員会の判断によりますので、早い段階で相談しておくと安心です。当校では、農水省の”農家”の定義である1反以上を借りることを推奨しています。

50代から始めるのは遅いでしょうか

兼業就農という形であれば、50代からの方はめずらしくありません。むしろ農業の世界では、若手と呼ばれます。ひとつだけ注意したいのは公的な支援で、就農準備資金と経営開始資金はどちらも原則49歳以下が対象です。50代の方はこの制度を使えないことが多いので、そのぶん初期費用を小さく抑える設計にしておくと、無理なく続けやすくなります。

まとめ

農業の学び方は、目的によって選ぶべき場所が変わります。専業を目指すなら公立の農業大学校、経営や販売を強くしたいならビジネス系スクール、まず土に触れてみたいなら体験型、会社をやめずに続けたいなら兼業を前提に設計されたカリキュラムが向いています。

選ぶときの物差しは、費用や通いやすさだけではありません。公立の農業大学校でも授業料は年額118,800円ほどかかりますし、どの学校を選んでも交通費や道具代、農地の賃借料が別に必要になります。研修中は就農準備資金(月13.75万円、最長2年、原則49歳以下)のような支援も使えますので、総額と支援の両方を並べて見てみてください。

そして最後の決め手になるのは、修了後に農地までたどり着けるかどうかです。新規参入者は年間3,750人と、新規就農者全体の1割にも届きません。下限面積の要件は2023年になくなりましたが、常時従事や地域との調和といった条件は残っています。制度の説明で終わらず、畑まで案内してくれる学校を選びたいところです。

農業を本格的に始めたい方は、無料オンライン説明会でカリキュラムの内容や農地の探し方を確認してみてください。

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