週末農業は年に何時間必要か計算した

「農業をやってみたい。でも、今の仕事を続けながら、そんな時間が本当にあるだろうか?」
オンライン説明会で、お金や農地の話より先に出てくるのが、この時間の話です。しかも多くの方が、はっきりした数字を持たないまま不安だけを抱えています。
そこで今回は、感覚ではなく数字で考えてみます。国の統計をもとに、週末農業に年間どれだけの時間が要るのかを計算し、最後に自分の生活へ当てはめるチェックリストにまとめました。読み終えたときに「これなら回せる」あるいは「この条件だと厳しい」と、自分で判断できる状態を目指します。
目次
「時間がない」の正体は、時間が読めないことです

40代から60代の会社員の方とお話ししていると、「時間がない」という言葉の中身が二つに分かれていることに気づきます。
ひとつは、本当に空き時間がないケース。もうひとつは、空き時間はあるけれど、農業に何時間かかるのか分からないので予定に組み込めないケースです。圧倒的に多いのは後者です。
必要な時間が分からないと、人は最大値を想像します。「毎日行かないといけないのでは」「盆も正月も休めないのでは」と考え、その想像に負けて動けなくなる。これは怠けているのではなく、見積もりの材料がないだけです。
材料は、実は公開されています。農林水産省が作物ごとの労働時間を統計として出しているからです。
統計が示す、作物ごとの年間作業時間

農林水産省の「農業経営統計調査」(平成18年産、全国平均)によると、水稲の10アール当たりの年間労働時間は27.96時間です。同じ統計で、都府県の田で作る大豆は9.8時間、小麦は8.0時間となっています。
一方、農林水産省の「品目別経営統計」をもとにした資料では、キャベツの10アール当たり労働時間は84.62時間。そのうち52.6パーセントにあたる44.53時間が「収穫・調製・出荷」に集中しています。大豆で最も時間を食うのは中耕除草で、9.8時間のうち3.1時間(31パーセント)です。
ここで押さえてほしい点は二つあります。第一に、作物によって必要時間が10倍近く違うということ。第二に、時間が均等に散らばるのではなく、特定の作業に山ができるということです。
もうひとつ、規模による差もあります。同じ水稲の統計で、作付規模0.5ヘクタールから1.0ヘクタール未満の層は10アール当たり34.55時間、15ヘクタール以上の層は14.01時間。小さく作る人ほど、面積当たりの時間は長くかかります。機械の据え付けや移動といった準備の時間が、面積で割れないからです。
なお、これらは平成18年産を中心とした統計で、数字としては古いものです。近年は機械化と規模拡大により全体の労働時間は短くなっています。ただ、作物間の大きな差、収穫と出荷への集中、小規模ほど面積当たり時間が長いという傾向は、現在の現場でも変わっていません。
10アールを、自分の畑の広さに割り直す

統計は10アール単位です。10アールは1000平方メートル、テニスコートおよそ4面分にあたります。兼業で始める方がいきなり借りる広さではありません。
当校の受講生が最初に手をつけるのは、おおむね1アール(100平方メートル)から3アールです。この広さに、先ほどの数字を割り戻してみます。
キャベツの84.62時間を1アール分にすると、年およそ8.5時間。3アールでも年およそ25時間です。水稲の27.96時間なら、1アールで年およそ2.8時間。つまり「作物を育てる作業そのもの」は、月あたり2時間前後という計算になります。
この数字だけを見ると、拍子抜けするほど少ない。土曜の午前中を月に一度あければ足りる計算です。ところが実際には、ここで止まる人が出ます。理由は次の章にあります。
面積で割れない時間が、実は一番きつい

週末農業が続かなくなる最大の理由は、作業時間ではなく、面積に比例しない時間です。代表格が三つあります。
ひとつめは、通う時間です。自宅から片道30分、往復1時間の畑に週1回通うと、それだけで年52時間になります。1アールのキャベツの作業時間8.5時間に対して、移動が6倍。畑を2倍に広げても移動時間は増えませんが、逆に言えば畑を半分にしても移動時間は減りません。
ふたつめは、見回りの時間です。夏場は水やりと獣害の確認で週2回になることがあります。5月から9月のおよそ22週で往復1時間を1回ずつ足すと、それだけで年22時間が上乗せされます。千葉の里山では、イノシシとハクビシンの被害確認は現地に行かないと分かりません。
みっつめは、草刈りです。草刈りは作付面積ではなく、畦と法面の長さで決まります。1アールの畑でも外周は40メートルほどあり、5月から9月は月1回から2回。1回1時間としても年8時間前後かかります。周囲に竹林が迫っている土地なら、竹の侵入を止める作業がさらに加わります。
この三つを合計すると、作業8.5時間に対して80時間前後。「農業に必要な時間」の大半は、実は作物ではなく土地との付き合いに使われているということです。
週末農業の年間時間チェックリスト

ここまでの内容を、そのまま見積書にしたのが次のリストです。紙かスマホのメモに、7つの数字を書き出してみてください。
- 畑までの往復時間 × 年間で通う回数(週1回なら52、月2回なら24)
- 作付面積(アール) × 作物の10アール当たり労働時間 ÷ 10
- 草刈り 1回あたりの時間 × 5月から9月の回数(月1回から2回)
- 土づくりと耕うんの段取り時間(堆肥の運搬、資材置き場の整理を含む)
- 資材の買い出しと後片づけ(1回の農作業につき30分から1時間)
- 雨で流れた日の振替枠(年間予定の2割から3割を予備日として確保)
- 地域の共同作業(水路掃除や共同草刈りの出役。地域により年2回から4回)
往復1時間、週1回、3アールで葉物中心という一般的な条件なら、合計はおよそ年100時間から130時間になります。週にならすと2時間から2時間半です。
この数字を見て「行ける」と思えたなら、あなたの生活には週末農業を入れる余地があります。逆に「無理だ」と感じたなら、無理な原因はやる気ではなく条件のほうにあります。条件は変えられます。
時間が足りないときの、現実的な3つの打ち手

時間が足りないと分かったとき、多くの方は「面積を減らそう」と考えます。ですが、先ほど見たとおり、削るべきはそこではありません。
打ち手1は、距離を削ることです。往復1時間を往復30分にできれば、それだけで年26時間が浮きます。3アールを1.5アールに減らしても、浮くのは年4時間程度。農地を探すときは、条件のよい遠い畑より、条件が普通で近い畑を優先したほうが続きます。
打ち手2は、作物で時間を選ぶことです。キャベツのような重量野菜は収穫と調製に時間が集中します。同じ面積でも、収穫が一度で終わる作物、貯蔵がきく作物、出荷調製の要らない自家消費中心の作付にすれば、必要時間は大きく変わります。統計上10倍近い差があるという事実は、そのまま選択肢の広さでもあります。
打ち手3は、一人で全部やる前提を外すことです。農林水産省の資料には、千葉県銚子市のキャベツ農家の事例が載っています。人力で10アール当たり11時間かかっていた定植作業が、半自動移植機の導入で3.45時間に短縮され、経営全体でも10アール当たり76時間が54時間になりました。導入コストは数百万円規模で、兼業で始める個人が単独で買えるものではありません。ですが、共同利用や研修の場であれば、こうした機械や段取りに触れることはできます。
当校でも、草刈り機の扱い、竹林整備の手順、耕うん機の使い方は現場で覚えていただきます。一人で試行錯誤すれば数十時間かかることが、教われば数時間で身につく。時間を節約する最も確実な方法は、経験者の横に立つことです。
今日からできる3つのこと

大きな決断は要りません。今日のうちにできることを、3つだけ挙げます。
- 地図アプリで、自宅から気になる地域までの往復時間を実測する。片道30分以内に候補地があるかどうかを確認する。
- 直近3か月のカレンダーを開き、土日のうち本当に空いている日を数える。年間換算して、上のチェックリストの数字と突き合わせる。
- その2つの数字を持って、説明会や現地見学に参加する。「この時間で何ができますか」と聞けば、答えは具体的に返ってきます。
この3つは、どれも農地を借りる前にできることです。そして、この段階で数字を持っている方ほど、あとの動きが速くなります。
よくある質問

Q. 週末だけで、野菜はきちんと育ちますか
A. 作物を選べば育ちます。週1回の管理で回しやすいのは、さつまいも、里芋、玉ねぎ、にんにくなど、生育期間が長く日々の細かい管理が少ない品目です。逆に、きゅうりやトマトのような果菜類は収穫のタイミングを外すと品質が落ちるため、週末だけでは難しさが増します。最初の1年は、失敗しても被害の小さい品目から入るのが現実的です。
Q. 平日に行けない日が続いたら、畑はどうなりますか
A. 一番影響が出るのは雑草と獣害です。5月から9月は2週間空けると草丈が膝上まで伸びることがあり、そこから刈るのは倍以上の労力になります。対策としては、防草シートや緑肥で裸地を作らないこと、そして畑の一部を意図的に空けておき、忙しい時期は管理面積を絞ることです。全部を完璧に管理しようとしないほうが、結果的に長く続きます。
Q. 記事で使われている統計は、今も同じ数字ですか
A. 引用した労働時間は平成18年産を中心とした統計で、数字そのものは古いものです。その後の機械化と規模拡大により、全体の労働時間は短くなっています。ただし、作物ごとの差、収穫と出荷への時間の集中、小規模ほど面積当たり時間が長いという構造は現在も同じです。目安として使ううえでは、いまも十分に役立つ数字だと考えています。
まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この記事でお伝えしたかったのは、週末農業に必要な時間は、作物を育てる時間よりも、通う時間と土地を守る時間のほうが大きいという事実です。1アールの畑なら作業は年8時間ほど。しかし移動と草刈りを足すと年100時間前後になります。そして減らすべきは面積ではなく距離であり、頼るべきは根性ではなく経験者の段取りです。
今すぐ決めなくて大丈夫です。農地を借りるのも、会社を辞めるのも、まだ先の話で構いません。
ただ、ひとつだけ。この記事のチェックリストで出したご自分の数字を、一度だけ誰かに見てもらってください。当校の無料オンライン説明会では、その数字をもとに「その時間で何ができて、何が難しいか」を具体的にお話ししています。
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