2人で50haを兼業で管理し、利益1500万円?節水型乾田直播は本当に可能か?

田んぼの仕事と聞いて、どんな風景を思い浮かべますか。

苗を育て、田に水を張り、代かきをして、田植えをする。春の一時期に作業が集中し、夏は毎日のように水を見に行く。これが、これまでの米づくりの当たり前でした。

その当たり前を、根本から組み替えようとしている技術があります。

水を張らない。苗も植えない。「節水型乾田直播(せっすいがたかんでんちょくは)」と呼ばれる栽培方式です。

紹介されているモデルでは、1haあたり30万円の利益、50haなら1500万円。しかもそれを2人が兼業で管理する、という数字が示されています。

本当にそんなことが可能なのか。私たちは、その答えを現場に確かめに行きます。

水を張らず、苗を植えない米づくり

節水型乾田直播は、農林水産省の資料では「畑状態で播種し、水を張らずに、水の散布のみで栽培する技術」と説明されています。田植えと代かきに加えて、水管理まで省力化できる点が、従来の乾田直播との大きな違いです。

育苗、代かき、苗の運搬、田植え。この一連の工程がなくなると、春の作業量は根本から変わります。

農研機構東北農業研究センターによれば、直播栽培では春作業の労働時間が移植栽培のおよそ5分の1、栽培全体でも3分の1程度まで減り、10aあたりの労働時間は約10時間という実績が報告されています。

視察先の農業法人では、乾田への直接播種に加えて、菌根菌などの微生物を活用した土づくり、品種選定、播種深度、初期除草、走水による水分管理を組み合わせています。

農林水産省の資料では、播種量は10aあたり5〜13kg、苗立数は1平方メートルあたり120〜150本、播種深度は3cm程度が目安とされています。単に水を使わない、という話ではありません。

発芽をそろえ、雑草を抑え、根をしっかり張らせる。そこまでを一つの栽培体系として設計する取り組みです。

1haあたり30万円、50haで1500万円という試算

今回紹介されているモデルでは、1haあたり30万円の利益を想定しています。50haであれば1500万円という計算になります。

さらに、作業工程の省力化と管理方法の標準化が進めば、50ha規模でも2人が兼業で管理する体制が可能になるとされています。

平日は本業を続け、必要な農作業を2人で分担しながら、50haの農地を維持する。もし成立するのであれば、これまでになかった兼業農業の形です。

ただし、この数字をそのまま利益保証として受け取ることはできません。

収量、販売価格、農地条件、機械の減価償却、資材費、地代、外注費、補助金の有無によって、実際の収支は大きく変わります。

そして何より、農林水産省は節水型乾田直播について「現状収量が極めて不安定」であり「技術確立が必要」と明記しています。まだ検証中の技術である、というのが公的な評価です。

だからこそ、確かめに行きます。「なぜ2人で50haが可能なのか」「1haあたり30万円という数字に、どこまでの費用が含まれているのか」。ここは資料を読むだけでは分かりません。

米価が下がるいまだからこそ、原価を下げる技術に意味がある

いま、米をめぐる状況は厳しさを増しています。

報道によれば、令和8年産の早期米の概算金は前年産比で2〜4割安く提示され、玄米60kgあたり14,000〜20,700円という水準になりました。生産段階のコスト指標とされる60kgあたり20,535円を下回る産地が相次いでいます。

相対取引価格も、令和7年10月の37,058円をピークに、令和8年6月には31,305円まで下がりました。

単価が下がる局面では、売り値を上げる努力よりも、原価を下げる努力のほうが確実に効きます。

育苗施設がいらない。田植機がいらない。水管理の見回りが減る。節水型乾田直播が削ろうとしているのは、まさにその原価の部分です。

米には、野菜と違って出荷の仕組みが整っているという強みもあります。売り先をゼロから開拓しなくても、作ったものを出せるルートがある。面積さえ確保できれば、規模で採算を組み立てる設計が描けます。

もちろん、単価の下落そのものは避けられないリスクです。だからこそ、低いコストで回る体系なのかどうかを、いまのうちに見ておきたいと考えています。

来年、香取市でも大規模に始まる予定です

今回の視察で内容に納得できれば、来年から千葉県香取市においても、同じ技術が大規模に開始される予定です。

香取市は、農林水産省の作物統計をまとめたデータで水稲の作付面積が約6,050ha、収穫量が約35,100トンとされる、全国でも有数の米どころです。乾田直播を試す土地としての条件は揃っています。

そして、その大規模な取り組みの進捗を見ながら、チバニアン兼業農学校の仲間たちが小規模から乾田直播を始める計画です。

一人で手探りするのではありません。先行する大規模な現場のデータを参照しながら、それぞれが自分の田んぼで試し、結果を持ち寄って互いに検証していきます。

「今年はこの播種量でこうなった」「この時期の走水で発芽がそろった」。そうした一つひとつの記録が集まれば、香取の土と気候に合った形が見えてくるはずです。

確立された技術を教わるのではなく、確立していく過程に加わる。検証中の技術だからこそ、仲間と一緒に試す意味があります。

離農が進むいま、農地も機械も動きはじめている

2025年農林業センサスの確定値は、日本の農業の構造が大きく変わりつつあることを示しています。

  • 農業経営体数は107万6千から82万8千へ、5年間で23.0%減少
  • 基幹的農業従事者は136万3千人から102万1千人へ、25.1%減少
  • 基幹的農業従事者の平均年齢は67.6歳
  • 1経営体あたりの経営耕地面積は3.1haから3.7haへ拡大
  • 20ha以上の経営体が耕地面積に占める割合が、初めて51.0%を超えた

離農した農地が、残った経営体に集まっている。数字が示しているのはその動きです。

これから稲作農家の離農はさらに進むと考えられます。裏を返せば、農地が動く機会はこれまでより増えていく可能性が高い。借りる、任される、引き継ぐ。そうした話が回ってくる場面は確実に多くなります。

機械も同じです。引退される方から譲り受けられる機会は、今後さらに増えていくでしょう。新品で一式を揃える前提だと初期投資は重くなりますが、そこが軽くなる余地があります。

ただし、条件のよい農地から順に決まっていくのも事実です。「いつか空くだろう」と待つ人より、地域とつながって動いている人のところに話は来ます。

9月12日、生徒有志と現地を視察します

2026年9月12日(土)、チバニアン兼業農学校では、生徒有志とともに福島県内の農業法人を訪ね、この取り組みを見せていただきます。

当日は、次の点を中心に確認する予定です。

  • 播種から収穫までに必要な作業と、年間スケジュール
  • 2人で管理できる作業範囲と役割分担
  • 初期除草と、発芽を安定させる方法
  • 走水の回数と、見回りに必要な日数
  • 収量、品質、そして実際の販売価格
  • 1haあたり30万円という利益試算に、どこまでの費用が含まれているのか
  • 50haへ拡大する際に必要な機械、外注、地域との連携
  • うまくいかなかった年に、何が起きたのか

最後の項目は特に大事だと考えています。成功事例だけを聞いて帰っても、自分の田んぼでは再現できないからです。

土の状態、作業の速さ、機械の動き、そして現場でいま困っていること。資料には出てこない部分を、自分たちの目で見てきます。

技術は一年に一度しか試せない。だから早く始める

兼業農業では、使える時間が限られています。

だからこそ、「頑張ればできる」という話ではなく、何時間必要で、何人で回せて、どこを機械化・外注化するのかを数字で考えることが欠かせません。

そしてもう一つ、稲作には動かしようのない制約があります。米は、一年に一度しか作れないということです。

播種量を変えてみる。走水の回数を調整する。品種を替えてみる。その検証一つひとつに、それぞれ一年かかります。5回試すには5年が必要です。

技術の習得に年数がかかる以上、始めるのが早い人ほど有利になります。これは才能や資金の差ではなく、単純に積み上げた年数の差です。

仕事を辞めずに農業へ踏み出すには、技術だけでなく、続けられる経営の仕組みが必要です。今回の視察では、節水型乾田直播の可能性だけでなく、導入時の難しさや成立条件も含めて学んできます。

視察後は、確認できた数字や現場の様子を、改めてこのブログでご報告します。

まとめ

節水型乾田直播は、育苗・代かき・田植えを省き、水管理の負担まで減らせる栽培方式です。1haあたり30万円、50haで1500万円という試算があり、2人が兼業で管理する体制も視野に入るとされています。一方で農林水産省は現状の収量を「極めて不安定」とし、技術確立が必要な段階と位置づけています。だからこそ9月12日に現場を訪ね、納得できれば来年から香取市でも大規模に開始し、その進捗を見ながら仲間と小規模で検証を重ねていく計画です。

米価が下がり、離農が進み、農地と機械が動きはじめているいまは、これから始める人にとって決して悪いタイミングではありません。ただし、技術の習得には年数がかかります。農業を本格的に始めたい方は、まず無料オンライン説明会で、農地の探し方や兼業就農の進め方を聞いてみませんか。

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