誰も農業を知らない2:SDGsを突きつめれば、日本の農業は世界をリードする

誰も農業を知らない2:SDGsを突きつめれば、日本の農業は世界をリードする

この本を読んで、大きな学びと共感がありました。世の中ではよく「農薬は悪」「耕さない農業こそ未来」といった極端な話が出ますが、本書ではそうした一般論に対して、科学的な根拠をもとに冷静に反論しています。特に農薬については、ただ危険と決めつけるのではなく、正しく使えば必要最小限のリスクで済むこと、むしろ不用意な代替法の方がリスクになる可能性もあると説明されていて、非常に納得感がありました。
また、海外で成功している農法をそのまま日本に持ち込んでもうまくいかない、という指摘にも大きく頷きました。日本は高温多湿で狭小な農地が多く、欧米の広大な農地や乾燥地向けのやり方は、そのままでは役に立たないことが多いのです。だからこそ、日本ならではの気候や風土、文化に合った農業の形を作る必要があると改めて感じました。
さらに、これからの農業は「家族農業」が基本になる、という主張も非常にリアルでした。高齢化や担い手不足が進む今、地域の中小規模の家族経営こそが現実的で持続可能なモデルです。これはまさに私たち兼業農家スクールでも目指している方向と重なります。
結局のところ、農業は科学的な根拠と現場の実情に即して進めることが一番大事なのだと、改めて確認できました。思い込みや流行ではなく、きちんとしたデータと現実を見つめる姿勢を忘れずに、これからも農を学び続けたいと思います。
本の概要
農家の激減と耕作放棄地、交付金と大規模農業の関係、有機肥料・土壌保全の重要性、温暖化と農業、持続可能性…、これからどう考えていくべきなのか、第一線のプロ農家が直言!
前作「誰も農業を知らない」は、農業界のみならず、ビジネスパーソンにもよく読まれました。巷にあふれる大規模農業は無農薬農業、あるいは六次産業化といった農業論がどれだけピントの外れたものになっているかを、どっさり書きました。
本著は、その第二弾です。メインテーマはSDGsになります。農業のSDGsといえば、農水省が2021年5月に「みどりの食糧システム戦略」を発表し、2050年までのロードマップを発表しています。
このロードマップを横目で見ながら、おそらく多くの人が関心を持っておられるであろう、食料安全保障、温室効果ガス削減、有機農業、そして農家の持続可能性について書いていきます。
SDGsは、温暖化対策だけではありません。自然保護であったり貧困問題の解決であったり、人類と地球の持続可能性に関わること全てがテーマになり、とるべき対策も多種多様です。
書いていて、自分でも驚いたことがふたつあります。私はSDGsとは世の中をよくするために良いことをしようという、優等生的な考えだと思っていました。しかし、実際は武士道のようなものではないかと思うようになりました。実効性のある、良きことを行うには、我々も相応に「コスト」を支払わなければならない……ここでいうコストはお金を払うことだけを意味しているわけではありません。武士道のような、一種の美意識をもって生きることだと考えるようになったのです。それが第一の驚きです。
第二の驚きは、SDGsの推進は、食料安全保障にもつながることでした。化学肥料の使用を減らすには、どんな方法がとれるのか考えていくと、こうした問題にも踏み込んでいくことになったのです。しかも、日本が海上封鎖され、化学肥料も石油も入ってこない時の対策が、食料自給率を低いままにしておくことになるのですから、書いた本人である私ですら腰を抜かしていたりします。
お楽しみいただけると幸いです。(前書きより)
目次
まえがき
第1章 農業の危機
ダストボウル―今なおアメリカが脅える大災害は農業がもたらした
我々は気候に殺されるのか? 温暖化とゲリラ豪雨
産廃業者に狙われる中山間農地
IoTによって劇的に生産性が上がっても、農家が足りなくなる
大規模農業は交付金漬け
ナチスに勝利したレジスタンスの挫折
自由貿易は環境に、人に優しいのか
大勢に流されない国、スイスの農業政策
識者はいったい何を見ているのか?
第2章 SDGsと食料安全保障
SDGsとみどりの食料システム戦略
SDGsとは経済に常に美意識を持ち込むこと
日本の国益と、世界のキレイゴトにやられないように
2050年、予想される未来
土壌保全が戦略的に重要になる
食品ロスも、どっさり減る
食料安全保障のために食料自給率は当面上げない方がいい
安全保障は数年持ちこたえられれば十分だ
有機肥料の物流網整備
日本も不耕起栽培をすべきなのか?
第3章 どこまで可能か? 温室効果ガス削減
温暖化対策の目標
悪者メタンに隠れる、極悪の一酸化二窒素
温室効果ガス削減の切り札はバイオ炭か?
畜産なしには温室効果ガス削減は不可能だ
アニマルウエルフェアの留意事項
昆虫食は普及するか?
第4章 有機農業25パーセント目標は達成できるか、達成すべきなのか?
なぜ農水省は有機農業25パーセント目標を掲げたのか?
無農薬はサスティナブルではない
有機農産物を貿易戦争の武器にする
有機農業普及には、最先端の育種技術に頼らねばならない
学校に有機給食を導入するのは教育的に害悪になる
「科学的な安全」に則した栽培基準作りを
第5章 農家の持続可能性
農家の持続可能性は無視されている
供給過剰は燃料作物生産で一気に解決する
変えなければならない常識、変えざるを得ない常識
輸出戦略・葉巻のマーケットでラグビーボールは売れない
家族農業は今後も主流であり続ける
農福連携は誰一人取り残さない手段になりうる
あとがき
著者情報
有坪民雄(ありつぼ・たみお)
1964年兵庫県生まれ。香川大学経済学部卒業後、船井総合研究所を経て専業農家に。和牛肥育と稲作の傍ら農業関係の執筆も行う。専門知識を初心者にも分かりやすく書くことが評価され、出した本が農業関係の公務員試験の参考書や、食品関係企業の研修テキストに使われることもあった。著書に、『誰も農業を知らない2 SDGsを突きつめれば、日本の農業は世界をリードする』(原書房)。前著『誰も農業を知らない プロ農家だからわかる日本農業の未来』(原書房)は、「農業は大規模にすればいい」「有機農業がよい農業」「遺伝子組み換えは危険」といった通説を一刀両断し、農業関係者のみならず、幅広く読者に支持された。