本当は明るいコメ農業の未来

本当は明るいコメ農業の未来

この本は、およそ10年前に出版された本ですが、いま改めて読んでみると、当時はあまり注目されていなかった側面が先見の明をもって書かれているように感じます。たとえば、著者が述べていた「田んぼの取引が無償同然になる」という話は、実は私たちの周囲でも現実になりつつあります。高齢化や後継者不足によって使われなくなった田んぼが増え、その維持を望む所有者が“無料でもいいから耕作してほしい”と声をかけてくれるケースが本当に増えているのです。

また、稲作は冬場に仕事がほとんどないため、他の仕事と組み合わせながら運営している例が本書ではいくつも紹介されていました。兼業農家であれば、農閑期には別の収入源を確保しつつ、田植えや収穫の忙しい時期に集中して稲作を行うスタイルが可能だというわけです。実際、私たちの学校でも、農作業が落ち着く冬の時期には別の仕事や勉強に取り組み、春から秋にかけては田んぼでの実習をしっかり行うという兼業ならではのメリハリがとても役立っています。

著者は長粒種の米が将来の主力になるかもしれないと書いていましたが、これも近年注目が高まっている傾向の一つだと思います。たとえば、日本のカレー専用の「華麗米」も、ここ数年で需要が伸びていると感じます。当校でも「華麗米」の栽培を行っており、その食べやすさから評判がいいです。国内でも、いわゆる短粒種が主流ではありますが、多様化する食のスタイルに合わせて長粒種を選ぶ人も増えています。これも著者が描いていた未来図のひとつではないでしょうか。

さらに昨今は、世界的な気候変動や物流の混乱などから米不足が話題にのぼることもあります。以前は供給過多だと言われていた米も、これからは「作っていてよかった」と感じられる作物になる可能性を秘めているように思えます。本書の内容こそ時代を経てやや古びて見える点はありますが、それ以上に、いまの状況を先取りした視点や、将来的なコメの価値を再発見できるヒントが数多く詰まっています。

私たちも兼業農家として、これから稲作をどう広げていくかを考えるうえで、非常に参考になる一冊です。特に、田んぼを有効活用する方法や冬季の働き方、さらには新しい品種への挑戦など、10年前の出版ながら今でも応用できるエッセンスが詰まっていると思います。古いからと敬遠せず、むしろ未来を予測していた書として目を通してみると、これからのコメづくりに向けた大きなヒントがきっと見つかるはずです。

本の概要

本の紹介

米価は低迷、コメの消費量が減退し、胃袋と口の数(人口)も減っていく日本。一見して「コメ農業には将来がない」ように思えるが、実際はまるで逆だ。コメづくりに携わる農家は全体の6割を占めるが、その多くは零細の兼業農家。近年、この兼業農家の減少が勢いを増し、農地が中?大規模の稲作農業者・農業法人に集積されつつある。5年以内に必ず起きる「大量離農」を機に、コメ農業はようやく「プロの時代」への一歩を踏み出す。

とっくにプロのコメ生産者として経営を拡大し、大量離農に備える農業者や、流通や販売の大改革でそれを支える企業や業者は国内外に少なくない。彼らは、合理化・効率化で生産費を下げて競争力のあるコメづくりをおこない、創意工夫と技術革新で「規模の経済の限界」を超え、グローバルな視点で世界の日本米需要に応え、消費者の嗜好に合わせた多彩なコメ商品を展開している。「新コメ農業時代」の幕開けに先駆けるそうした事業者たちの活動を、専門紙誌でコメの生産・流通・販売の現場を取材してきた著者がくわしく紹介。そこには、たしかに将来性と希望のあるコメ農業の姿が浮かび上がってくる。

しかし、明るいはずのコメ農業の未来を阻む事態が、いま着々と進行している。なくなるはずの「減反政策」が逆に勢いを増し、「自由にコメをつくり、売れる時代」を約束したはずの国が、現場のコメづくりを激しく操作しようとしているのだ。その実態をあきらかにしたのが第一章。コメをつくる生産者、流通や販売に携わる業者はもちろん、コメを食べる消費者も知っておくべき、2016年以降のコメ農業にふりかかりつつある「本当の危機」を見逃すな。

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