AIは農業の仕事を奪うのか

「自分の仕事は、あと何年もつだろうか」
40代、50代の会社員の方と話していると、この話題が出ない日はほとんどありません。資料をつくる、数字をまとめる、文章を書く。パソコンの前で完結する仕事は、AIがかなりの部分を引き受けられるようになりました。私自身も日々使っていて、この流れは止まらないと考えています。
では農業はどうなのか。ロボットが畑を耕す時代が来たら、農業もAIに奪われるのか。ここを本気で考えてみたところ、デジタルの仕事とはまったく違う結論になりました。今日はそれを書きます。
目次
「奪う」「奪われる」には必ず主体がいる

まず整理しておきたいのは、奪うという言葉には必ず主体があるということです。誰から、誰が奪うのか。ここを曖昧にしたまま議論すると、ただ不安だけが残ります。
パソコンで完結する仕事の場合、奪う側はAI、奪われる側はその仕事に従事している人、つまり雇われている会社員です。ここは、おそらく多くの方の実感どおりだと思います。
ところが農業に同じ図式を当てはめようとすると、途端に当てはまらなくなります。理由は3つあります。
農業がデジタルの仕事と違う3つの点

1. 体がなければ作業が終わらない
農業は労働集約型の仕事です。AIが農作業を代替するには、体を持ったロボット、いわゆるフィジカルAIが必要になります。画面の中で完結する仕事のように、ソフトを入れ替えれば終わり、とはいきません。
2. 一体ですべての作業はこなせない
耕うん、播種、除草、防除、収穫、選別、運搬。これらを1台の機械が全部やるという形にはなりにくく、作業ごと、あるいは圃場ごとに台数が必要になります。人間より数倍速く働けたとしても、面積が広がれば台数が要ります。ここはデジタルの複製コストがほぼゼロという世界とは根本的に違います。
3. AIは権利の主体になれない
これが決定的です。日本の法律で権利や義務の主体になれるのは、自然人と法人だけです。AIそのものは農地を借りることも買うこともできません。農地法の許可を受けるのも、農業委員会に申請するのも、地域計画に位置づけられるのも、あくまで人か法人です。
そしてもうひとつ、AIがどれほど優秀でも、果樹を1年で10年分育てることはできません。作物には作物の時間があります。技術は作業を速くできても、季節を早送りすることはできないのです。
では、AIは誰から仕事を奪うのか

ここが本題です。仮にAIとロボットが農作業の一部を担うようになったとして、その作業から生まれる利益はどこへ行くのでしょうか。
答えは、その設備を導入した経営者のところです。つまり農業においてAIに仕事を代わられる立場にあるのは、農業法人などに雇われて働いている人、いわゆる雇用就農の方ということになります。
逆に言えば、これから新しく自分で始める人にとっては、そもそも奪われるという言葉が当てはまりません。自分が経営の主体であれば、AIは奪う相手ではなく、使う道具だからです。同じ技術でも、どちらの側に立っているかで意味が正反対になります。
ここは、会社員の方にこそ知っておいてほしい構図です。会社の中では、多くの人が雇われる側にいます。けれども農業では、小さくてもいいので自分が主体になることができます。
数字が示す、農業という産業の特殊な事情

なぜ農業でこうした話が現実味を帯びるのか。背景には担い手の減少があります。
2025年農林業センサスの確定値によれば、基幹的農業従事者は103.6万人、平均年齢は67.7歳です。65歳以上が約7割を占め、50歳未満は12.6%にとどまります。さらに農林水産省は、今後20年で基幹的農業従事者が約30万人まで減少する見込みだとしています。
この見通しを背景に、2024年6月に成立し同年10月1日に施行されたのがスマート農業技術活用促進法です。認定を受けた事業者が税制や融資の優遇を受けられるほか、農地法や航空法に関わる行政手続きのワンストップ化といった特例も用意されています。
要するに国は、人が減る前提で、技術を使う人を後押しする方向に舵を切っています。人が減るということは、裏を返せば農地が余るということでもあります。ここに、後から参入する人の余地があります。
23区で働きながら、千葉の畑をロボットが耕す日

少し先の話をします。技術がさらに進んだとき、東京23区のオフィスでパソコンに向かいながら、千葉の畑ではロボットが作業をしている、そんな兼業農家が成り立つ可能性があると私は考えています。
人件費という最大のコストを抱えずに面積を広げられるなら、兼業であっても相応の規模の農業が成立します。今の常識では想像しにくいかもしれませんが、方向としてはあり得る話だと思っています。
ただし、そのとき効いてくるのは技術ではありません。技術は、お金を出せば誰でも買えるようになります。買えないものが2つあります。ひとつは農地です。もうひとつは、その地域で受け入れられているという関係です。
農地は地図の上で勝手に増えません。地域の中で信頼を積み上げた人のところにしか集まってきません。私たちの千葉の圃場でも、最初の1枚を借りるまでに1年以上かかった区画があります。草刈りに通い、顔を覚えてもらい、それからようやく話が動きました。この時間だけは、AIに短縮してもらうことができません。
つまり、未来にAIを使いこなす側に立ちたいのであれば、準備しておくべきは技術の勉強ではなく、農地と地域との関係だということになります。
今日からできる3つのこと

1. 自分の仕事のうち、パソコンで完結している割合を書き出してみる。そこが置き換わりやすい部分です。
2. 通える範囲の市町村名と「地域計画」で検索し、10年後に誰がその農地を耕す想定になっているかを見てみる。
3. 農業を「雇われて働く場所」ではなく「自分が主体になれる場所」として考え直してみる。
どれも、農地を持っていなくても今週できることです。
まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
AIが農業の仕事を奪うかという問いは、実は「あなたは雇われる側か、使う側か」という問いに置き換えられます。そしてAIは農地を借りることができず、作物の時間を早送りすることもできません。だからこそ、先に農地と地域との関係をつくった人が、技術の恩恵をいちばん受けられる立場に立ちます。
今すぐ会社を辞める必要はありませんし、今日答えを出す必要もありません。兼業という形なら、今の生活を守ったまま、その準備を始められます。
ただ、ひとつだけ。農地がどう動いていて、会社員がどこから入れるのかは、記事を読むだけではなかなかつかめません。無料のオンライン説明会で、その具体的なところをお話ししています。
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