農業はいくらかかる?50代就農1年目の現実

「農業をやってみたい」と思ってから、もう何年か経っている。そういう方から相談を受けるとき、話の途中で必ず出てくる質問があります。

「実際のところ、いくらかかるんですか」

この質問に正面から答えている場所は、あまり多くありません。農業の入口の情報は、やりがいや自然の話が中心で、お金の話は後回しになりがちだからです。

今日は、公的な調査で公表されている数字をそのまま並べてみます。読んで少し怖くなる数字もあります。ただ、金額がわかると、怖さの正体が「わからないこと」だったと気づけることもあります。

先に結論を書いておきます。農業を事業として始めると1年目に数百万円が動きますが、会社員が週末から始める場合は年1万円台からでも成立します。同じ「農業を始める」でも、選ぶ入口で金額は100倍以上変わります。

50代で就農した人が、1年目に払った金額

一般社団法人全国農業会議所の全国新規就農相談センターが、2025年3月に「新規就農者の就農実態に関する調査結果(令和6年度)」を公表しています。農家出身ではない人が自分で農業経営を始めた、いわゆる新規参入者を対象にした調査です。

この中に、就農1年目に何にいくらかかったかという集計があります。就農したときの年齢が50歳から59歳だった96人の数字を見てみます。

機械や施設への支出が平均554万円。種苗、肥料、燃料などの必要経費が平均144万円。合計すると平均698万円、中央値は400万円です。

平均は、大きな投資をした一部の人に引っ張られます。実感に近いのは中央値の400万円のほうでしょう。それでも、就農した最初の年に400万円が出ていったということになります。

60歳以上の24人では費用合計が平均427万円(中央値250万円)、40歳から49歳の490人では平均874万円でした。年齢が上がるほど金額は下がりますが、それは体力や規模に合わせて小さく始めているからだと考えられます。

そして注目したいのは内訳です。50代の698万円のうち、554万円、およそ8割が機械と施設です。トラクター、管理機、軽トラック、ハウス、倉庫。畑そのものよりも、畑を動かす道具のほうがはるかに高いのです。

念のため申し添えると、この調査の対象は農業を事業として始めた人です。週末に畑を借りて野菜を作る人の数字ではありません。ただ、いつか少し広げたいと考えているなら、その先に待っている金額として知っておく価値はあります。

1年目の売上は、中央値58万円

同じ調査に、就農1年目の農産物売上高も載っています。

就農時50歳から59歳の人は平均147万円、中央値58万円。60歳以上は平均29万円、中央値0円。調査対象全体では平均354万円、中央値158万円でした。

50代で就農した人の半分は、1年目の売上が58万円以下だったということです。60歳以上にいたっては中央値が0円、つまり1年目に売上が立たなかった人が半数近くいたことになります。

400万円を出して、58万円が返ってくる。この差を埋めるのが自己資金です。同じ調査では、50代の営農面の自己資金が平均515万円(中央値300万円)、それとは別に生活面の自己資金が平均336万円でした。農業に使うお金と、その間の生活費を、両方自分で用意している姿が見えてきます。

なぜ1年目に売れないのか。理由ははっきりしています。土がまだできていないので収量が上がらない。品目も定まっていない。そして何より、売り先がない。

畑で野菜ができることと、その野菜が誰かの手に渡ることは、まったく別の作業です。当校でも、栽培は順調に進んだのに、直売所の出荷ルールや値づけの段階で止まってしまう方がいます。作る技術と売る仕組みは、別々に覚える必要があります。

50代からは、就農支援の資金が届きにくい

農林水産省には、新規就農者向けの資金制度があります。研修期間中に月13.75万円(年間最大165万円)を最長2年間交付する就農準備資金と、経営開始後に月13.75万円(年間165万円)を最大3年間交付する経営開始資金です。

数字だけ見れば心強い制度です。ただし対象は「49歳以下」と定められています。50歳を過ぎてから就農を考える方は、原則としてこの2つの外側に立つことになります。

借り入れの状況にも、同じ傾向が出ています。先ほどの令和6年度調査では、就農時に資金を借り入れた人の割合は全体で54.6%、40歳から49歳では55.4%。ところが50歳から59歳では28.4%、60歳以上では0.0%まで下がります。

年齢が上がるほど、自己資金だけで始めることになりやすい。だからこそ、50代以降の農業は、最初に出す金額の設計が、続けられるかどうかをほぼ決めてしまいます。

なお、支援制度の要件や金額は年度ごとに変わります。実際に申請を検討される際は、必ずお住まいの市町村や都道府県の就農相談窓口で最新の内容を確認してください。

週末農業なら、年1万円台から始められる

ここまでの数字は、農業を事業として始めた人のものです。会社員を続けながら小さく始める場合、桁がひとつどころか二つ変わります。

まず自治体の市民農園。15平方メートル前後の1区画で年6,000円前後という例が多くあります。埼玉県和光市は15平方メートルで年6,000円、東京都調布市はおおむね15平方メートルの区画が月500円、埼玉県越谷市は市街化区域で年5,000円です。地域によって、年2,000円から12,000円ほどの幅があります。

次に、道具や種苗、栽培アドバイザーがついた民営のレンタル農園。月6,000円から15,000円程度、年間では10万円台になるのが一般的です。手ぶらで通えるぶん、費用は市民農園より高くなります。

そして農地そのものを借りる場合。千葉市農業委員会が公表した令和7年1月から12月の実績では、普通畑10アール(1,000平方メートル)当たりの年額賃借料は、千葉市平均で8,500円(228筆)でした。田は平均23,500円(70筆)です。

1,000平方メートルの畑が、年8,500円。土地の値段そのものは、多くの方が想像するよりずっと安いのです。

ただし、これは農地法に基づく許可などを経た賃貸借の実勢額であって、会社員がいきなり10アール借りられるという意味ではありません。農地を借りるには農業委員会の許可が必要で、そこで見られるのは支払える金額ではなく、その土地をきちんと耕せる体制があるかどうかです。

お金の壁より先に、信頼と段取りの壁がある。ここが農業の入口の、少し変わったところです。

お金で止まる人と、続く人の分かれ目

これまで受講生を見てきて、資金の面でつまずくかどうかは、だいたい次の3つで決まっていました。

1つめは、最初の1年に機械を買わないこと。50代の費用合計698万円のうち、554万円が機械と施設でした。逆に言えば、ここを我慢できれば1年目の支出は大きく下がります。トラクターも管理機も、まずは借りる、共同で使う、作業を頼む。所有は、続けられると確信してからで間に合います。

2つめは、作る前に出す先を決めること。直売所の登録条件、出荷できる曜日、袋詰めや表示のルール。これは畑に行く前に調べられます。売り先が1つでも決まっていると、作る品目も量も自然に決まります。

3つめは、生活費と農業のお金を分けること。調査では、営農面とは別に生活面の自己資金が平均336万円計上されていました。農業のお金と家計が混ざると、うまくいっていないことに気づくのが遅れます。口座を分けるだけで、判断のスピードが変わります。

当校が我孫子市でトレーニングファーム用の農地の賃借許可を取得したときも、機械を先に揃えたわけではありません。まず場所を確保し、地域に説明し、耕す人を集めました。順番を間違えないことが、いちばん確実な節約でした。

今日からできる3つのこと

1. 農業に出せる年間の上限額を、1つの数字で決める。「無理のない範囲で」ではなく、12万円、30万円、といった具体的な金額にします。これが決まると、選べる始め方が一気に絞れます。

2. お住まいの自治体の市民農園の年間利用料を調べる。自治体のサイトで10分ほどの作業です。実際の金額を見ると、農業が急に手の届く距離に来ます。

3. すでに機械を持っている人の話を、直接聞く。何を買って、何を借りているのか。何を買って後悔したのか。この話は、どの記事よりも具体的です。見学会でも説明会でも構いません。

この記事で使用した数字の出典は次のとおりです。就農1年目の費用・自己資金・売上高は、一般社団法人全国農業会議所 全国新規就農相談センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果(令和6年度)」(2025年3月公表)。支援資金の内容は農林水産省「就農準備資金・経営開始資金」。農地賃借料は千葉市農業委員会「千葉市賃借料情報」(令和7年1月から12月の実績)。市民農園の利用料は各自治体の公表情報です。

まとめ

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

50代で就農した人の1年目は、費用の中央値が400万円、売上の中央値が58万円。数字だけを見れば、確かに厳しい世界です。一方で、市民農園なら年6,000円前後、千葉市の畑の賃借料は10アールで年8,500円。始め方によって、かかるお金はこれだけ変わります。

農業でお金に困るのは、金額が大きいからではなく、金額を知らないまま進んでしまうからだと思っています。

今すぐ何かを決めなくて大丈夫です。農地も機械も、今日買う必要はありません。

ただ、ひとつだけ。自分の場合はいくらかかるのか、その見当をつける機会だけは、早めに持っておいてほしいのです。数字は、一人で調べるより、実際にやっている人と一緒に見たほうが、早く正確になります。

当校の無料オンライン説明会では、農地を借りるまでの費用と手順、機械を買わずに始める方法、兼業のまま続けている方の実際の年間支出を、具体的な金額でお話ししています。農業を本格的に始めたい方も、まだ迷っている方も、まずは情報収集としてご参加ください。

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