自給率を心配するより、自給力をあげることが重要


「米が高い」と言われ続けた去年から一転、今年は「米が安くなる」という話をよく聞くようになりました。スーパーの店頭価格は下がり、2026年産の新米については、JAが農家に先に支払う概算金(前払い金)が全国的に2〜4割下がっています。

買う側にとっては、ありがたい話です。

ところが、まったく同じ時期に、正反対のニュースが流れました。コメ農家の廃業が、4年連続で過去最多を更新する見通しだというのです。

価格が上がった年も、下がった年も、作る人は減り続けている。この二つの事実が同時に起きているとき、私たちが考えるべきなのは値段のことではありません。

農業に興味がある人は多い。でも、最初の一歩を一人で踏み出せる人は、ほとんどいません。

米が安くなる年に、コメ農家の廃業は過去最多ペース

帝国データバンクが2026年9月6日に公表した「米作農業」の休廃業解散・倒産動向によると、2026年1月から8月までに廃業したコメ農家は28件、倒産は4件で、合計32件にのぼりました。1月から8月までの累計が30件を超えるのは3年連続で、このペースが続けば4年連続で過去最多を更新する見通しです。

数字の中身を見ると、事情がもう少し立体的に見えてきます。

帝国データバンクによれば、2025年度は米作農業の77.8%が増益でした。米価が上がり、経営としては潤ったはずの年です。それでも廃業は止まりませんでした。廃業した経営者の代表者年齢は70代後半が中心で、全国のコメ農家の代表者年齢も平均で60代を超えています。

そして2026年産では、概算金が全国的に約2〜4割下がりました。九州や関西では、コシヒカリの概算金が60キロあたり1万3000円台という数字が出ています。潤った翌年に、収入の前提が2〜4割削られる。この振れ幅の大きさそのものが、続けるかどうかの判断を迫ります。

TBS NEWS DIGの報道では、猛暑や豪雨による生産の不安定化、農家の高齢化に加えて、イラン情勢や円安を背景にした肥料・農薬・農業機械の値上がりが重荷になっていると伝えられています。

つまり、価格が高いから続けられる、安いからやめる、という単純な話ではありません。高くても安くても、一人で背負い続ける構造そのものが限界を迎えています。

食料自給率37%という数字が本当に示していること

農林水産省が2026年8月7日に公表した令和7年度の食料自給率(概算値)は、カロリーベースで37%でした。前年度から1ポイント下がり、過去最低の水準です。

一方で、生産額ベースの自給率は66%と、前年度から2ポイント上がっています。同じ年に、片方が下がって片方が上がる。ここに、自給率という数字の性格がよく表れています。

農林水産省の説明によれば、カロリーベースが下がった理由は、国産の供給熱量が減ったことに加えて、米の消費量が減り、民間在庫が増えたことです。生産額ベースが上がった理由は、米や畜産物の国内価格が上昇し、国内生産額が増えたことです。

整理すると、こうなります。米が余っているのに自給率は下がり、米が高かったから生産額ベースは上がった。

自給率は、私たちが何をいくらで食べたかを映す結果であって、私たちが何を作れるかを直接示す数字ではありません。

だから、自給率を目標に置くと、話がどうしても他人事になります。国が上げるもの、政策が決めるもの、自分にはどうにもならないもの。そう感じてしまうのは自然なことです。

コメ農家がやめていく3つの理由

理由1: 農地の壁は、畑に立つ前にある

農地を借りる、譲り受ける、あるいは次の世代に引き継ぐ。そのどれもが、農地法の許可、農業委員会での審議、地域の水利や道の使い方といった話とセットになります。手続きを一つ動かすのに、何か月もかかることは珍しくありません。

高齢の農家がやめるときも同じです。引き継ぎ手がいないまま手続きだけが重い。結果として農地が動かず、耕作放棄地になっていきます。

農業は、畑に立つ前から始まっています。

理由2: 一人で背負う作業量が、いつか限界を超える

米作りは、田植えと稲刈りだけではありません。畦の草刈りは夏に何度も回ってきますし、水の見回りは毎日です。イノシシやシカが入れば、電気柵の設置と点検が加わります。

代表者年齢が70代後半という数字は、この作業量を一人で何十年も回してきた人たちの年齢です。体が動かなくなる前に、気持ちが折れることがあります。

農業で折れるのは、体力よりも孤独です。

理由3: 専業のコスト構造が、価格の振れ幅に耐えられない

トラクター、田植機、コンバイン、乾燥機。専業でやろうとすると、機械だけで数百万円から一千万円を超える投資になります。そこに肥料と農薬の値上がりが重なりました。円安とイラン情勢による資材高は、農家が自分の努力で下げられるものではありません。

その上で、概算金が2〜4割動く。固定費が大きいほど、この振れ幅は経営に直撃します。

逆に言えば、収入のすべてを米に賭けていない人なら、この振れ幅の中でも続けられます。仕事を辞めないからこそ、農業に挑戦できる人がいます。

農業を始められない理由は、やる気がないからではありません。始め方を知らないだけです。

自給率より、自給力を上げる

チバニアン兼業農学校の意見は、はっきりしています。米が安いと言われている今こそ、食べものについて考えるときです。そして、私たちが提案する解決策は、自給率を上げることではなく、自給力を上げることです。

ここで言う自給力とは、自分と家族が食べる分を、自分で作れる力のことです。国の数字ではなく、個人や家庭で今日から積み上げられる力を指します。

似た言葉に「食料自給力指標」という農林水産省の公式指標があります。国内の農地を最大限に活用し、熱量効率を最大化した場合に、1人1日あたり何キロカロリーを供給できるかという、国全体の潜在能力を示す試算です。令和4年度の推計では、米・小麦を中心とした作付けに切り替えた場合で1,720キロカロリー、いも類を中心とした作付けに切り替えた場合で2,368キロカロリー。日本人の推定エネルギー必要量(1人1日あたり2,168キロカロリー)と比べると、作るものを切り替えれば計算上は国内の農地だけで足りることになります。

ただし、これはあくまで国全体の潜在能力の話です。当校が言う自給力は、これとは尺度が異なり、一人ひとりが自分の手で確保できる分を指します。

数字で見ると、想像よりずっと現実的です。当校の受講生が実際にやっているのは、一反(約10アール)の田んぼで米を作ることです。作業日数は年間7日以下、時間にしておよそ30時間。それで、およそ500キロの米が穫れます。

農林水産省の食料需給表によると、1人当たりの米の消費量は令和6年度で年間53.4キロです。4人家族なら、1年でおよそ214キロ。つまり一反あれば、家族2世帯分の米がまかなえる計算になります。

年間30時間は、会社員を続けたまま、休みの日に何度か畑と田んぼへ通う。それだけで、自分の家の米は自分で確保できる状態になります。

自給率は、国全体の数字です。個人には動かせません。けれど自給力は、一人が一反を持てば、その分だけ確実に増えます。誰でもできて、しかも増えた分が消えない。これが、私たちが自給力を推す理由です。

農業を学ぶとは、作物の育て方だけでなく、土地との付き合い方を学ぶことです。

米が安い今だからこそ、始めやすい

米が高騰していた時期、農地を貸したいという話はあまり出てきませんでした。作れば売れる、値段も高い。手放す理由がなかったからです。

価格が下がり、資材が上がり、代表者の平均年齢が60代を超えている今、状況は変わりつつあります。「そろそろ誰かに任せたい」という声が、地域の中で出てくるようになりました。

これは、始めたい人にとっては入り口が開いたということです。ただし、開いた入り口に一人で飛び込むのは勧めません。農地法の手続き、地域との顔つなぎ、水利組合への挨拶、機械の共同利用。この辺りを一人でやろうとすると、たいてい最初の一年で疲れます。

当校の受講生は、首都圏在住の50代の会社員が中心です。累計500名以上(2026年9月現在)が学んできました。皆さん、会社員を続けたまま、月に数日だけ千葉に通っています。うまくいっている人に共通しているのは、能力ではなく、一緒にやる人がいたことです。

今日からできる4つのアクション

1. 自分が農業に使える時間を書き出す。毎週土曜だけ、月2回だけ、年に10日だけ。まずは正直な数字を出してください。年間30時間あれば、一反の米作りは射程に入ります。

2. やりたい農業を一度分解する。米、野菜、果樹、竹林整備、里山整備、直売。同じ「農業」でも、必要な時間も設備もまったく違います。

3. 農地を探す前に、現場を見に行く。説明会でも体験講義でも圃場見学でも構いません。土の感触と、夏の草の伸び方を知ってから決めたほうが、後悔が少なくなります。

4. 「専業かどうか」ではなく「続けられる形」で考える。今の仕事を守りながら、少しずつ面積を増やす。この順番のほうが、結果的に長く続きます。

農業は、覚悟だけで始めるものではありません。準備して始めるものです。

よくある質問

Q. 米が安くなるなら、自分で作るより買ったほうが得ではありませんか?

A. 単年の損得だけで計算すれば、買ったほうが安くつく年はあります。ただ、自給力は「安いときにいくら得するか」の話ではなく、「買いにくくなったときにどうするか」の話です。2025年には店頭から米が消え、価格が急騰しました。翌年には概算金が2〜4割下がっています。この振れ幅の中で、自分の家の分だけは自分で持っている。その安心感は、値段では測りにくいものです。

Q. 会社をやめずに米作りはできますか?

A. できます。当校の受講生は首都圏在住の会社員が中心で、多くの方が仕事を続けたまま通っています。一反の米作りなら、年間の作業日数は7日以下、時間にしておよそ30時間です。ただし、水の見回りや草刈りは自分だけで抱えないほうが続きます。仲間と分担する前提で設計してください。

Q. 農地はどうやって手に入れるのですか?

A. 農地を借りたり買ったりするには、原則として農地法第3条にもとづく農業委員会の許可がいります。書類の書き方そのものより、誰から借りるか、地域の水利や道をどう使うかを先に整えるほうが実務では効きます。当校では、農地の探し方と農業委員会への申請準備を、実際の事例に沿って扱っています。

Q. 未経験でも大丈夫ですか?

A. ほとんどの受講生が未経験から始めています。ただ、農業は楽な仕事ではありません。夏の草刈りは暑く、竹林整備は重労働です。それでも続いている人がいるのは、大変さを事前に知った上で、一緒にやる相手がいるからです。

まとめ

米の価格が高くても安くても、コメ農家は減り続けています。2026年1月から8月の廃業と倒産は32件で、4年連続の過去最多が視野に入りました。同じ年、食料自給率はカロリーベースで37%と過去最低になりました。自給率は、私たちが何をいくらで食べたかの結果を映す数字であって、個人が動かせるものではありません。

動かせるのは自給力のほうです。一反の田んぼ、年間30時間、米500キロ。この積み重ねなら、会社員を続けたままでも、今日から始められます。農業を人生の逃げ道にするのではなく、人生を広げる選択肢にしてほしいのです。農業を本格的に始めたい方は、まず無料オンライン説明会で、農地の探し方と始め方を確かめてみてください。

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