農業に新規参入した3360人の現実

「いつか農業をやってみたい」と思ったまま、何年も過ぎている。そんな方に一度見ていただきたい数字が、2026年8月25日に公表されました。

農林水産省の「令和7年新規就農者調査結果」です。全国で1年間に何人が農業に入ったのか、その人たちがどんな形で入ったのかが、年齢別・部門別にまとめられています。

統計の話は退屈に思えるかもしれません。ただこの調査は、農業を始めたいと思っている人が自分の立ち位置を確かめられる、数少ない材料です。今日はこの数字を、会社員として農業を考えている方の目線で読み解いていきます。

2026年8月に公表された、農業の入口の数字

調査の対象期間は、2025年2月1日から2026年1月31日までの1年間です。この間に新しく農業に就いた人は、全国で4万2,850人でした。前年に比べて1.5パーセントの減少です。

このうち49歳以下は1万4,410人で、前年から8.3パーセント減っています。若い世代の減り方のほうが大きい、というのがこの1年の特徴です。

大事なのは、この4万2,850人がひとかたまりではないことです。農林水産省はこれを3つの形に分けています。

1つ目が新規自営農業就農者で、2万9,240人。実家や親族の農業経営に入る、いわゆる親元就農がここに入ります。2つ目が新規雇用就農者で、1万250人。農業法人などに雇われて働き始めた人です。3つ目が新規参入者で、3,360人。土地や資金を自分で調達して、新しく農業経営を始めた人たちです。

農業に縁のない会社員が「農業を始めたい」と考えるとき、進む先はこの2つ目か3つ目になります。1つ目の親元就農は、生まれた家が農家であることが前提だからです。

3,360人という、いちばん小さな数字

新規参入者3,360人。この数字を、私はいつも講座の最初のほうでお話しします。

農林水産省の定義では、新規参入者とは「土地や資金を独自に調達し、新たに農業経営を開始した経営の責任者および共同経営者」です。親から農地を受け継いだ人は含まれません。つまり、ゼロから始めた人の実数です。

新規就農者全体の4万2,850人に対して、3,360人はおよそ8パーセント。前年からは10.4パーセント減っています。決して広い入口ではありません。

ただ、この数字の受け取り方は2通りあります。

1つは「やはり狭き門だ」という読み方。もう1つは「それでも毎年3,000人以上が、実際にこの門を通っている」という読み方です。

私は後者で読んでほしいと思っています。3,360人のうち、経営の責任者として登録された人が3,100人、92.3パーセント。共同経営者は260人です。つまり大半が、自分の名前で農業を始めています。特別な家系でも、莫大な資産家でもない人たちが、1年で3,000人以上いるということです。

新しく入った人は、何を作っているのか

同じ調査には、新規参入者が選んだ部門も載っています。数字はこうです。

露地野菜作が1,050人で最も多く、全体の31.3パーセント。次いで果樹作が810人(24.1パーセント)、稲作が540人(16.1パーセント)、施設野菜作が480人(14.3パーセント)、畑作が220人(6.5パーセント)、花き作が100人(3.0パーセント)と続きます。

3人に1人が露地野菜を選んでいる。この偏りには理由があります。

1つは初期投資の小ささです。ハウスを建てれば数百万円から、規模によっては1,000万円を超えます。畜産なら畜舎と家畜が必要です。露地野菜であれば、借りた畑と管理機と手作業から始められます。最初にかける金額が小さいほど、判断を間違えたときの傷が浅くて済みます。

もう1つは、作型の回転が速いことです。葉物なら数十日、根菜でも数か月で結果が出ます。1年に何度も答え合わせができるので、失敗を次の作付けで修正できます。果樹は逆で、植えてから収穫まで数年かかります。最初の1年で軌道修正がきかない世界です。

つまり新規参入者の多くは、いきなり大きく張らずに、小さく回して確かめる道を選んでいます。この選び方は、仕事を続けながら農業を始めたい会社員の方にとって、そのまま参考になります。

50歳以上の約1,000人は、どこから来たのか

新規参入者3,360人のうち、49歳以下は2,300人で68.5パーセントを占めます。ということは、残りのおよそ1,060人が50歳以上です。

調査の累年データを見ると、この50歳以上の内訳は、50代がおよそ500人、60歳以上がおよそ500人です。60歳を過ぎてから、自分の名前で農業経営を始めた人が、1年に500人前後いるということになります。

この層は統計の主役として扱われることがほとんどありません。国の食料・農業・農村基本計画が目標に掲げているのは49歳以下の担い手の数だからです。政策の光は若手に当たります。

けれども、40代後半から60代で農業を考え始める方にとって、この約1,000人こそが自分に最も近い集団です。ニュースの見出しは「49歳以下が過去最少」と伝えますが、そこに自分を重ねる必要はありません。見るべきは、自分と同じ年齢帯の人が、去年どれだけ実際に動いたかです。

1,000人という数は、多くはありません。ただ、ゼロではないどころか、毎日どこかで3人が新しく農業を始めている計算になります。

現場から見ると、数字の手前に何があるか

ここからは、統計には出てこない話をします。

私たちの拠点は千葉県睦沢町です。ここで週末に畑へ来る受講生の方を見ていて思うのは、この統計に名前が載るのは「経営を開始した」その日であって、その手前に長い時間があるということです。

たとえば、50代半ばで会社員をされている方が講座に来られると、最初にやるのはたいてい草刈りです。作物を植える前に、まず刈る。夏場の一日で、腕が上がらなくなる方もいます。そこで「思っていたのと違う」と感じるか、「これなら続けられそうだ」と感じるかは、実際に立ってみないとわかりません。

農地を借りるまでにも時間がかかります。話が出てから、地権者の方と会って、地域の方に顔を覚えてもらって、農業委員会の手続きを通す。順調でも数か月、長ければ1年以上かかることがあります。

つまり、去年3,360人として数えられた人の多くは、その1年前、2年前から動き始めていた人たちです。統計は結果であって、入口ではありません。今年の数字に自分の名前を入れたいなら、動くのは今年です。

農業に興味がある人は多い。でも、最初の一歩を一人で踏み出せる人は、ほとんどいません。ここで止まっている方が、私の見るかぎり圧倒的に多いのです。

憧れを「予定」に変える、数字の使い方

数字は眺めるだけでは何も変わりません。自分に当てはめると、はじめて意味が出ます。おすすめしているのは、次の3段階の逆算です。

第1段階は、開始年を仮に置くことです。「いつか」ではなく「2029年の春」のように、年と季節まで決めます。根拠がなくてかまいません。仮でよいのです。

第2段階は、そこから逆算して準備期間を割り当てることです。農地の交渉と農業委員会の手続きにおよそ1年、その前に作物と規模を決めるのに半年から1年、さらにその前に現場で作業を経験して自分の体力と時間を確かめるのに半年から1年。合計すると、おおむね2年から3年です。2029年春に始めるなら、動き出しは2026年か2027年ということになります。

第3段階は、逆算した最初の年に何をするかを1つだけ決めることです。すべてを決める必要はありません。最初の1つは、たいてい「現場を見る」で十分です。

この逆算をすると、多くの方が同じことに気づきます。「いつか」と思っていた時期が、実はもう始まっている、ということです。

よくある質問

Q. 新規参入者が減っているということは、今から始めるのは不利ですか

A. 参入する人が減ることと、始めやすさは別の話です。むしろ担い手が減っている地域では、農地を貸したい地権者や、地域を任せたい自治体が増えています。むしろライバルが減る、引退者から農地、機械、事業、家を引き継ぐことができるなどの有利な点もあります。

Q. 統計に載る「新規参入者」にならないと、農業を始めたことになりませんか

A. なりません。この調査が数えているのは、農業経営を開始した人です。市民農園や体験講座で野菜を育てている段階の方は集計に入りませんが、それは農業に関わっていないという意味ではありません。多くの方はその段階を経て、次に進んでいます。

Q. 会社を辞めないと、この数字の中に入れませんか

A. 新規参入者の定義に、専業か兼業かの条件はありません。仕事を続けながら農業経営を始めた人も、この3,360人に含まれます。収入の柱を持ったまま始められることは、農業を続けるうえで弱点ではなく強みになります。

今日からできる3つのこと

1. 農業に使える時間を、実際の予定表に書き出す。毎週土曜の午前だけなのか、月2回の土日なのか。頭の中ではなく、カレンダーに書いてみてください。

2. 作りたいものを1つに絞ってみる。露地野菜、果樹、稲作、里山の整備。今日の統計で言えば、いちばん人数が多いのは露地野菜です。迷うなら、そこから考えるのが現実的です。

3. 農地を探す前に、現場に一度立つ。畑の広さ、夏の暑さ、草の伸びる速さは、写真では伝わりません。見学でも説明会でもかまいません。

まとめ

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

2026年8月に公表された農林水産省の調査では、ゼロから農業経営を始めた新規参入者は3,360人。そのうち約1,000人が50歳以上でした。露地野菜作を選んだ人が最も多く、小さく始めて確かめる道が現実的だということも、数字が示しています。

この数字は、農業の入口が狭いことも、それでも毎年誰かが通っていることも、同時に教えてくれます。どちらを見るかで、次の行動は変わります。

今すぐ決めなくていいと思います。農業は勢いで始めるものではありませんし、決断を急がせるつもりもありません。

ただ、ひとつだけ。来年の統計を眺める側で終わるのか、そこに一行分の自分を入れるのか。その差は、今年のうちに一度現場を見るかどうかで生まれることが多いのです。まずは情報を集めるところから、はじめてみてください。

無料オンライン説明会申し込み

参加費無料・オンライン開催の説明会。所要時間は約60分、Zoomでご自宅から参加できます。

農地の探し方、農業委員会申請の準備、兼業で農業を始める流れ、先輩農家のリアルな話をわかりやすくお伝えします。ニックネーム参加・顔出しなしでもOK。まず情報収集として、お気軽にご参加ください。

参加希望日
ニックネーム
住所
無料オンライン説明会参加
60歳一本勝負!佐藤誠さんの再挑戦:51歳のキャリアとライフスタイルの再設計
当校の特徴
入学案内