熊害と温暖化の影響

温暖化が招く「熊害」増加の背景とは

近年、「熊が町に出た」「畑で熊を見た」といったニュースを頻繁に耳にするようになりました。環境省の発表によると、2023年度のクマによる人身被害は全国で219人と、統計を取り始めた2006年度以降で最多でした。背景には、単なる「熊の増加」ではなく、気候変動と人口減少という社会の構造的な変化が隠れています。

東京農工大学などの研究によれば、山にエサが減ったり、冬が短くなって活動期間が長くなったりしたことにより、熊が人里へ下りてくるケースが増えています。さらに、人口減少により耕作放棄地が増え、人の気配が薄くなった地域が熊の新たな生息地になりつつあります。つまり、山の中の食糧事情と里の人間活動の変化が重なり、熊と人との距離が一気に縮まってしまったのです。

山の恵みであるブナやドングリの実りが悪い年には、熊が広範囲を歩き回って食べ物を探すため、出没件数が急増する傾向があります。こうした出来事は、偶然ではなく、私たちの暮らし方と地球の変化が生み出した「警鐘」ともいえるでしょう。

山から平地へ、熊の生息域が広がる理由

東京農工大学の研究チームが過去40年間にわたり日本の大型哺乳類の分布を分析したところ、イノシシ、ツキノワグマ、ニホンジカ、ヒグマなど、6種すべての生息域が急速に拡大していることが明らかになりました。ツキノワグマは西日本で、ヒグマは北海道全域に広がる傾向が見られます。

特に注目すべきは、温暖化によって「雪が減った」ことです。以前なら冬の寒さが厳しく、熊は冬眠していましたが、暖冬の影響で冬眠期間が短くなり、活動できる期間が増えています。これにより、従来より北や高地などの寒冷地帯にも熊が進出するようになりました。

もうひとつの要因は「人がいなくなった土地」です。高齢化や人口減少により、かつて人の手が入っていた山のふもとや里山が放置され、耕作放棄地が増えました。人の姿が消えた場所は、熊にとって安全で食料も豊富な「新しいテリトリー」になります。結果として、熊は山から平地へ、生息域を広げ、人との遭遇が増えていったのです。

温暖化が農業に与える現実的な影響

温暖化の影響は、熊の行動変化だけでなく、私たちの農業そのものにも直接現れています。先日、睦沢町で行われた東大特任教授・鈴木先生の講義に参加した際、地域の農業者に「真夏の昼間に作業できなくなったのはいつ頃からか」と尋ねたところ、多くの方が「5年ほど前から」と答えていました。つまり、すでに温暖化が農作業の現場に明確な制約を与え始めているということです。

行政は「熱に強い品種を開発する」としていますが、年々日射量が増加し、記録的な猛暑が常態化している現状では、それだけで対応しきれるか疑問です。これは日本だけの問題ではなく、世界中で進行している現象でもあります。温暖化の波は年ごとに激しさを増し、平均年齢70歳を超える日本の農家に「気候変動と戦え」と求めるのは、もはや無理に近い現実です。

こうした中で、「せめて家族の分だけは自分でつくる」という自給の姿勢が、これからますます大切になっていくでしょう。自然の変化を感じ取り、身の丈に合った農の形を取り戻すこと。それこそが、温暖化時代における「生きる力」なのかもしれません。

熊害から見える、これからの農と暮らしの形

熊が山を下り、田畑を荒らすようになると、被害を受けるのは農家だけではありません。地域の安全や観光にも影響し、山と人との関係そのものが揺らぎます。これを防ぐためには、単に「熊を駆除する」だけでは不十分です。

むしろ、放棄された土地を再び人が使い、地域の人々が里山に関わることで、熊を遠ざける効果が生まれます。人が動き、草が刈られ、畑が耕されるだけで、野生動物は近寄りにくくなるのです。つまり、「農を取り戻すこと」が、熊害を防ぐ最も自然な方法なのです。

幸いなことに、千葉県には熊がいません。だからこそ、安心して農業を始めることができます。これからの時代、専業でなくても構いません。週末農業や小さな畑からでも、自分や家族の食べ物を育てることが大切です。

チバニアン兼業農学校では、こうした「自給自足を目指す人」に向けた学びと実践の場を提供しています。自然と共に生きる感覚を取り戻し、無理なく、楽しく、そして持続的に農を続ける。熊害や温暖化のニュースの中にも、私たちが未来へ向けてできることのヒントが隠れているのです。

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