兼業就農のリアル 修了生4人の体験談

「いつか農業をやってみたい」

そう思いながら、何年も動けずにいる方は、けっこう多いのではないかと思います。

畑はどこで借りるのか。始めたあとに何が待っているのか。分からないことばかりで、最初の一歩がいちばん重たく感じられるのかもしれません。

農業に興味がある人は多い。でも、最初の一歩を一人で踏み出せる人は、ほとんどいません。

そこでチバニアン兼業農学校では、実際に一歩を踏み出した修了生4人に集まってもらい、オンラインの座談会を開きました。登壇したのは、4期の東野正嗣さん、5期の相澤まなみさん、8期の釣井秀宣さん、9期の大野敦子さんです。

年齢も、始めた理由も、いま取り組んでいることも、4人それぞれ違います。それでも、話を聞いていると、同じ方向を向いた言葉がいくつも出てきました。

農業は、作物を育てる技術だけでは続かない。畑を管理して、地域の方に顔を覚えてもらって、仲間と助け合いながら、自分に合った形をゆっくり作っていく。そこに、兼業で農業をやることの現実と、面白さがありました。

この記事では、4人の体験談と、そこから見えてきた大切なことを、そのままの温度でお伝えします。読み終えるころには、「まず何をすればいいのか」が、少しはっきりしているはずです。

※座談会の発言は、内容を変えない範囲で読みやすく整えています。

目次

37年の会社員生活から、定年後の畑へ(4期・東野正嗣さん)

東野さんが農業を始めたきっかけは、定年が近づいたことでした。

大学を出てから37年間、会社員として働いてきた方です。「第二の人生をどう過ごそうか」と考えたとき、会社員を続ける道ではなく、これまでのIT関係の経験を生かした仕事と農業を組み合わせて、個人事業主として生きていく道を選びました。

10年ほど続けてきた家庭菜園を、もう少し本格的な形に広げてみよう。そんな気持ちだったそうです。

「当たるか分からないけれど、手を挙げてみよう」

受講の終わりが近づいたころ、睦沢町で農地を借りられるかもしれない、という話が耳に入りました。

ここで東野さんは、学んで終わりにせず、手を挙げます。当たるかどうかは分からない。それでも、とりあえず声を上げてみる。この小さな決断が、あとから振り返ると大きな分かれ道になりました。

借りた畑では、横浜から通いながらサツマイモを育てました。サツマイモを選んだのは、手をかける回数が比較的少なくてすむことと、苗の購入から栽培、販売まで、先輩農家さんや地域の組合が力を貸してくれたからです。

ただ、横浜から睦沢町までは片道およそ2時間。2年通ったところで、今度は自宅に近い横浜市内で農地を探すことにしました。睦沢町で積み上げた耕作の実績を持って横浜市の農業委員会に相談し、情報をたどっていった結果、いまは自宅から車で15分ほどの畑で、サツマイモや大豆を育てています。

最初から、広くて条件の良い畑を探さない

東野さんが繰り返し話していたのは、はじめから理想の農地を求めすぎない、ということでした。

小さな畑でかまわないので、まず借りて、草を刈って、きちんと耕す。通っていると、近所の農家さんや土地の持ち主から声をかけられるようになり、地域の事情が少しずつ見えてきます。

実際、睦沢町で畑を耕していたときも、通りかかった方との立ち話から、空いている土地や空き家の情報につながりました。畑の隣にあった、長いあいだ使われていない空き家については、登記簿から持ち主を調べて連絡。最終的に、仲間がその空き家を借りて直し、活動の拠点として使うところまで進んでいます。

横浜でも、隣で管理されずに残っていた農地の持ち主を探し出し、別の修了生へつなげたそうです。

農地は、インターネットで探すだけでは、なかなか見つかりません。目の前の畑をていねいに管理して、地域の方と顔を合わせて、信頼を少しずつ重ねていく。その先に、次の農地や新しい出会いが生まれてくるようです。

農業は、畑に立つ前から始まっています。

3坪の畑から始まった、君津での農のある暮らし(5期・相澤まなみさん)

相澤さんが農業を始めたきっかけは、引っ越しでした。

神奈川県川崎市から千葉県君津市へ移り住むと、家のまわりには田んぼや畑が広がっていました。その一方で、耕されないまま放っておかれた田んぼも、ぽつぽつと目に入ったそうです。

「誰かが何とかしないといけない。誰もやらないのなら、自分も少し担ってみよう」

そんな気持ちから、近所の方に借りた3坪ほどの畑を耕し始めました。

それまでの経験は、ベランダのプランター栽培くらい。長さ2メートルほどの畝を作るだけで1時間かかっていた、という話には、思わずうなずく方も多いかもしれません。

それでも相澤さんは、田んぼに出ている農家さんを見つけては話しかけました。「いまは何をしているんですか」「これは何の作業ですか」と。その姿を見ていた農家さんから、「そんなに興味があるなら、手伝ってみないか」と声がかかります。作業を手伝いながら、地域の農地の事情や、本当の栽培のやり方を教わっていきました。

空いている田んぼでも、すぐには借りられない

地域には、草が伸びて手が回らなくなった田んぼがありました。

ただ、使われていないからといって、見ず知らずの移住者にすぐ貸してもらえるわけではありません。

持ち主にとって農地は、ご先祖から受け継いだ大切な財産です。どう使われるのか分からない相手に預けることへ不安を感じるのは、当たり前のことだと思います。

相澤さんの場合は、手伝っていた農家さんが間に入ってくれたことで、ようやく借りることができました。いま契約している農地は2反ほど。そのほかにも、地域とのつながりのなかで使わせてもらっている土地があります。

ただし、借りられたのは、水はけが悪くて機械が入りにくいために耕されなくなった元の水田でした。排水の手を打っても、深くぬかるむ場所を良くするのは簡単ではありません。農地が空いているのには、それなりの理由がある。その現実も、身をもって知ることになりました。

売るより、地域で交換するほうが豊かなこともある

相澤さんは、直売所や地域のカフェで野菜を売った経験もあります。

けれど、少しの量を売るだけでも、袋詰め、値付け、運搬、売れ残りの引き取りと、手間はどんどん増えていきます。直売所まで往復するガソリン代も、ばかになりません。

ご家庭の事情もあって、いまは無理に販売を続けず、近所の方に野菜を配ることが増えたそうです。

野菜を渡すと、別の野菜やお米、地域の品物になって返ってきます。袋詰めも運搬もいりません。売上の数字には出てこなくても、食費が下がり、地域とのつながりが深まり、暮らし全体がゆたかになっていきます。

さらに相澤さんご夫妻は、地域の草刈り作業にも参加しています。農業をきっかけに地域へ入ったことで、野菜を売ること以外の仕事にも声がかかるようになりました。

農業の値打ちは、作物の売上だけでは測れないのだと感じさせられます。

荒れた土地が、仲間の集まる「市原ベース」になるまで(8期・釣井秀宣さん)

釣井さんのきっかけは、奥さまの実家に関わる農地でした。

親族の多くが相続を望まなかった農地を、お義母さまがいったん相続し、それを釣井さんが買い取ることになりました。

ところが古い土地だったため、権利の関係が入り組んでいて、昔の戸籍や登記を何代もさかのぼって調べる必要が出てきます。自分の名義にする方法を調べていくうちにチバニアン兼業農学校を知り、手続きや制度を学びました。

手に入れた場所に残っていたのは、荒れた農地と古い建物。木の抜根、草刈り、投げ込まれたようなごみの片づけと、一人ではとても終わらない状態でした。

一人だと止まることも、仲間がいれば動き出す

ここで力を発揮したのが、同じ期や次の期の仲間たちです。

「それなら、みんなでやろう」

有志が集まり、少しずつ土地を整えていきました。こうして生まれたのが、市原市でオリーブ栽培などに取り組む「市原ベース」です。

農業で折れるのは、体力よりも孤独です。逆に言えば、一緒に汗をかく相手がいるだけで、進まなかったことが動き出すのだと思います。

畑を作っていく時間そのものが楽しい

市原ベースでは、オリーブのポット栽培だけでなく、地植え、畑づくり、緑肥を使った土づくりなど、いろいろな試みが進んでいます。

新しく入った方が加わり、先輩が経験を伝え、そこにまた新しいアイデアが持ち込まれます。釣井さんが福祉の事業をされていることから、農作業と福祉を組み合わせた取り組みも始まりました。福祉事業所の利用者さんがオリーブ畑の草取りなどを担当し、農地の管理と仕事づくりが結びついています。

できあがった畑で作物を育てることだけが農業ではありません。荒れた土地を開き、水やりの仕組みを考え、土を良くして、人が集まれる場所を作る。その途中の時間にも、大きな楽しさがあります。

釣井さんは、これから農業を始めたい方に向けて、市原ベースへ見学や作業に来てほしいと呼びかけていました。一人では進まないことも、人が集まれば動き始めます。

古民家と山を手に入れて、里山の学び場をつくる(9期・大野敦子さん)

大野さんは、京都にご家族の拠点を持ちながら、仕事のために東京で単身生活を送っていました。

大手の家電メーカーで働くかたわら、食を通じて人をつなぐワークショップなども開いていたそうです。

ただ、一緒に料理を作るだけでは、その日の交流で終わってしまいます。もっと続けて人が集まり、健康になり、自分自身も一生続けられる活動を作りたい。そこで思い描いたのが、農業や里山暮らしを中心にしたコミュニティでした。

大野さんはチバニアン兼業農学校だけでなく、パーマカルチャーや小屋づくりなども学び、3年ほどかけて準備を進めます。そして、早期退職の募集と、市原市で探していた古民家と農地の購入時期が重なりました。

「いまが人生の転機なのではないか」

そう考えて会社を辞め、市原市の小さな集落にある古民家と農地、山林を手に入れました。

土地全体はおよそ10万平方メートル。ただし、すぐ畑として使えるのは一部だけです。多くは山林や、長く使われずに山のようになってしまった土地でした。

広い土地を手に入れたからといって、理想の暮らしがすぐ完成するわけではありません。古民家の修繕、草刈り、山の手入れ、水の確保と、やることは数え切れないほどあります。

やりたいことを口にすると、人と機会が集まる

大野さんは以前から、「古民家と農地を使って、こんな場所を作りたい」と、まわりに話し続けていました。

そのおかげで、条件に合う物件の情報が、友人のつながりから入ってきます。一般に売りに出る前に持ち主と会う機会が生まれ、購入へとつながりました。

手に入れたあとも、仲間と一緒に古民家の床や内装を直し、裏山の竹を使ったレイズドベッドを作り、水を生かしたビオトープづくりを進めています。竹を切って流しそうめんをしたり、パーマカルチャーの講師を招いたりと、農地や山そのものが学びの場になりました。

大野さんが目指しているのは、作って売るだけの農業ではありません。里山をひとつのコンテンツとして、企業で働く人と自然をつなぎ、学びや交流を生み出すことです。

「自分が何をしたいかを口にすることが大切。楽しんでいる姿を見せていると、共感する人が集まってくる」

大野さんの歩みを、そのまま表しているような言葉だと思います。

4人に共通していた、兼業就農で大切な5つのこと

歩んできた道はそれぞれ違うのに、4人の話には重なる部分がいくつもありました。ここでは5つに整理してお伝えします。

1. 小さくても、実際に始めてみる

知識を増やすだけでは、地域とのつながりも農地の情報も増えません。3坪でも、まず借りて管理すると、声をかけられ、次の機会が生まれます。農業を始められない理由は、やる気がないからではありません。始め方を知らないだけです。

2. 農地は、信頼があって初めて借りられる

耕作放棄地があっても、持ち主が誰にでも貸したいわけではありません。あいさつをする、地域の作業に出る、約束を守る、草を放っておかない。そんな毎日の積み重ねが、農地を借りるときの信用になります。

3. 農業は、作って終わりではない

売るとなれば、袋詰め、値付け、運搬、営業、在庫の管理まで考えることになります。何を作るかと同じくらい、誰にどう届けるかという出口の設計が大切です。

4. 最初から全力を出しすぎない

相澤さんは、はじめから全力で走り、さらに広げようとして無理が出た経験を話してくれました。最初は自分の力の50から60パーセントくらいで始めて、家庭や仕事の変化に対応できる余白を残しておく。長く続けるには、そのくらいがちょうど良いのかもしれません。

5. 兼業だから、失敗してもやり直せる

本業からの収入があれば、農業ですぐ利益が出なくても暮らしは崩れません。販売を休んでも、作物を変えても、面積を減らしてもかまわないのです。

兼業は、農業に本気ではないという意味ではありません。試行錯誤を続けるための、安全性の高い仕組みだと考えています。仕事を辞めないからこそ、農業に挑戦できる人がいます。

「儲からないけれど、こんなに楽しいことはない」

座談会の最後に、東野さんが定年後の農業についてこう話しました。

「儲からないけれど、こんなに楽しいことはない」

時間があれば畑へ行き、作物の世話をする。農機具が壊れれば分解して直し、必要なら小屋や設備を自分で作る。その日の食卓には、自分の育てた野菜が並びます。

お金の面だけを見れば、大きな利益が出ているわけではありません。それでも、健康、食事、仲間、生きがい、地域とのつながりといった、お金では測れないものが少しずつ積み上がっています。

農業を始めたことで、4人の暮らしは当初の計画を超えて広がっていきました。畑から空き家へ。作物から草刈りや地域の活動へ。農業から福祉、DIY、環境整備、コミュニティづくりへ。

はじめから今の姿を思い描いていた人は、一人もいません。まず小さく始めて、目の前の畑を管理して、人と出会って、次にできることを考える。その積み重ねが、それぞれの農業と暮らしを形づくっています。

すべての準備が整う日を待つ必要は、たぶんありません。できる範囲の一歩を踏み出すこと。その先で出会う人や土地が、思ってもみなかった第二の人生を開いてくれるのだと思います。

よくある質問

Q. 農業の経験がまったくなくても大丈夫ですか?

A. 座談会に登壇した相澤さんも、始める前の経験はベランダのプランター栽培くらいでした。畝を1本作るのに1時間かかっていたそうです。経験の有無より、通い続けられる距離や時間を確保できるかのほうが大切だと感じています。

Q. 農地はインターネットで探せますか?

A. 情報の一部はネットでも見られますが、実際に借りられた4人は、どなたも人のつながりから農地にたどり着いています。まず小さな畑を借りて管理し、地域の方と顔を合わせるほうが近道になることが多いようです。

Q. どのくらいの広さから始めるのが良いですか?

A. 決まりはありませんが、東野さんも相澤さんも、小さな面積から始めています。最初から広い農地を借りると、草刈りだけで手いっぱいになることもあります。管理しきれる広さから始めるのが安心かもしれません。

Q. 会社を辞めないと農業はできませんか?

A. そんなことはありません。今回の4人も、会社員を続けながら始めた方、定年を迎えてから始めた方、早期退職を選んだ方と、入り方はさまざまです。本業の収入があるうちに小さく試すほうが、失敗してもやり直しがききます。

Q. 育てた野菜は必ず売らないといけませんか?

A. いいえ。相澤さんのように、近所の方に配って別の作物や品物が返ってくる形もあります。売上の数字には出ませんが、暮らしとしては十分に豊かになるという考え方です。

まとめ

修了生4人の話に共通していたのは、小さく始めて、目の前の農地をていねいに管理し、地域や仲間との関係を少しずつ育ててきたことでした。農地は信頼があって初めて借りられ、農業は作って終わりではありません。

そして兼業という形なら、暮らしを守りながら試行錯誤を続けられます。農業を本格的に始めたい方は、まず無料のオンライン説明会で、農地の探し方や始め方の全体像を確かめてみてください。

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